LalaーMukuーMerry

フルメタル・ジャケットのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.0
「2001年宇宙の旅」、「時計じかけのオレンジ」、「Dr. Strangelove」のスタンリー・キューブリック監督の戦争もの、という情報だけでこの作品に入っていった私。
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海兵隊の鬼教官が罵詈雑言(とても真似して使えない!)を容赦なく浴びせる厳しい訓練の様子で始まる前半。これ、私の好きな「愛と青春の旅立ち」の空軍士官学校の様子と同じじゃん? ひょっとして、あの映画はこの作品の真似だったの?と疑問が頭をよぎる・・・。 「フルメタル・ジャケット」は1987、「愛と青春の旅立ち」は1982。 なんだ、こっちが真似たのかと、ひと安心。
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アメリカの軍隊は、陸(Army)、海(Navy)、空(Air Force)だけでなく海兵隊(Marine)というのがある(ついでに沿岸警備隊も入れた5軍から米軍はなる)。海兵隊は敵国に上陸して戦闘を最初に仕掛ける最も危険な任務を負う軍隊であり、それだけに人々の尊敬も高い。戦前の日本の陸軍と海軍では全く気風が違っていたらしいが、アメリカ軍の訓練学校では海兵隊も空軍もみな同じなんだな。学校に入りたての新人たちを震え上がらせる鬼教官の態度とか、集団ランニングしながら歌う歌まで。(ちなみに日本の自衛隊の訓練はどんなんだろう、そういう映画ができないかな)。
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「愛と青春の旅立ち」の鬼教官は最初は怖かったけど、だんだん人間味あふれるよい教官だとわかってきて感動するのだけれど、人間の狂気を描くのが得意なキューブリックだから、そんなものを描くはずがないと思っていたら、案の定の前半の結末でした。
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後半は、訓練学校を卒業し晴れて海兵隊となった若者たちが経験したベトナム戦争、そこで人間が狂っていく様子が描かれるのだけれど、正直な印象を言いますと、ベトナム戦争の現場のえげつなさや、人が狂っていく悲劇の描き方は「プラトーン」や「地獄の黙示録」の方がずっと訴えるものがあって強烈だった。この作品は、その狂気や愚かさを上から目線でみると滑稽だと伝えようとしているような感覚を覚えた。その点は評価できますが、やはり戦場で修羅場を経験した人たちが作る作品の迫力には、さすがのキューブリック監督の想像力もかなわないのだなと・・・。
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人間の本質にある狂気を見透かすような作品、そのためには近未来や架空の世界を舞台にした方が彼の真価を発揮できるのだなと感じた次第です。 ・・・偉そうな物言いですいません