カツマ

フルメタル・ジャケットのカツマのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.4
ローリングストーンズの『黒くぬれ』と共に転落していくエンドロール。全てを塗りつぶす戦争と言う名の黒色は、グシャグシャに人間の精神をも崩壊させていく。この映画は戦争への問題提起というよりも、戦争そのものをなるべく加工せずに描こうとしている。非人道的な兵士の教育は彼らの人間臭い部分を根こそぎ削ぎ落とし、人を殺すことを躊躇させない冷徹な狂気を生み出していく。爆炎の下でミッキーマウスを歌うシーンが耳にこびり付いて離れない。その頃にはもう胸のピースマークを直視することはできなくなっていた。

そこはベトナム戦争に兵を送るための兵士訓練所。教官のハートマンの怒声と下卑たNGワードが絶え間なく浴びせかけられる訓練生たち。落ちこぼれで教官からデブと呼ばれシゴキを受けるレナードは、同期のジョーカーらの助けもあって何とか訓練最終日を迎えた。だが、レナードの精神はすでにボロボロ。ついには訓練最終日の夜に事件は起きてしまう。
後半の舞台はベトナム。訓練を終えたジョーカーは報道員として戦争の記事をアメリカ本土に届ける任務を負っていた。戦地の報道のために激戦地へと向かったジョーカーは、そこでかつての訓練の同期生カウボーイと出会い、彼の隊と共に爆炎渦巻く戦場へと歩を進めていくことになるのだが・・。

この物語は前半と後半に大きく分かれており、前半は鬼教官ハートマンによる人格否定的な狂気のシゴキが強烈。最底辺の差別ワード、下ネタワードのオンパレードが軽快な歌に乗せてブチまけられ、翻訳家には新語開発が求められるほどだったろう。
対して後半はベトナムでの戦場となり、現地の兵士たちの迷いや、ブチ切れて人を殺しまくる殺戮兵器と化した者の姿を淡々と描き出している。戦争を極力美化せずに描いた作品ではあるが、そもそも戦争に美化する部分などあったのだろうか。キューブリックは反戦映画を作ったわけではないと言うが、生々しさを増すほどにそれは反戦映画として機能していたように思えた。
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