おなべ

フルメタル・ジャケットのおなべのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
3.7
元海兵隊曰く、これ程までに海兵隊の実際を忠実に描き出し真に迫った映画は他に無いと言う。

前半は普通の若者が如何にして死をも恐れぬ過激な海兵隊へと変貌していくのか、それ迄の過程を時間をかけリアルに描き、後半は戦争が引き起こすその結果とベトナム戦争を舞台に戦争が齎す悲劇と戦場の実際を丁寧且つ鋭く描いている。

《スタンリー・キューブリック》監督は、本作を通して人間の持つ狂気性を描いている。前半シーケンスにおける訓練シーンに関して、厳格な環境下で訓練を行い余分な部分を削ぎ落としながら死をも恐れぬ精神を刷り込みつつ自我を崩壊させ、新しく従順な兵士を作り直すように徹底的に調教する様は、ある種の“洗脳”に近しいものがあった。
後半部分は主人公ジョーカーを通して、半端な狂気が生み出す葛藤や苦悩が描かれており、同時に他の“刷り込まれた”兵士との比較が為されている。

【以下ネタバレ含む】

●スナイパーの少女を撃ち殺したジョーカー。少女もまた同様に戦闘兵士として狂気の片鱗が見出されていた。それとは対照的に、中盤に上官の非人道的な行為に疑問を抱いた事や少女を殺す事への躊躇いから非情になりきれないジョーカーの葛藤が見て取れる。他の兵士然り、人間が狂気に取り憑かれ殺人マシーンへと変貌し一線を越えるまでの境界線を垣間見た気がする。

●最後は「ミッキーマウス」の歌を斉唱しながら大行進をするシーンで物語は幕を閉じる。茫洋として掴み所の無い映像に、ただただ無言で画面を見つめるしかなかった。
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