コーカサス

見知らぬ乗客のコーカサスのレビュー・感想・評価

見知らぬ乗客(1951年製作の映画)
4.0
“殺人の代償”

『太陽がいっぱい』の原作者パトリシア・ハイスミスの同名小説を、『大いなる眠り』『ロング・グッドバイ』のレイモンド・チャンドラーが脚色し、ヒッチコックが映画化した贅沢なサスペンス。

妻と離縁したいと望む男が、列車に乗り合わせた見知らぬ乗客から“交換殺人”を持ちかけられ、否応なしに殺人事件へ巻き込まれてしまう。

ヒッチコックという監督は、弱点や身体的または精神的に欠陥がある人間を描くのが実に上手く、ことに『サイコ』のような異常者を主役にした本作のウォーカー演じるブルーノの歪みきったサイコパスぶりは恐怖そのもので、個人的にはヒッチコック作品の中でもお気に入りの一本。

ダブルに裾上げされたスラックスにコンビのウィングチップと黒のウィングチップの足元だけをひたすらクロスカットで追う冒頭シーンから、テニスの試合でボールの行方を追い首を左右に振る観客の中、ひとりブルーノ (ウォーカー) だけがガイ (グレンジャー) を見つめる有名なシーン、ブルーノの母 (ローン) が描く異常な絵が親子を只者ではないことを暗示させる演出、そしてラストの暴走する回転木馬のシーンはどれも見事で、とりわけトリュフォーが「まるでラブシーンのよう」と語った眼鏡のレンズ越しに映し出された殺人シーンは素晴らしい。

なお、ガイの恋人アン(ローマン) の妹バーバラには、ヒッチコックの娘パトリシア・ヒッチコックが扮しているのも注目だ。

67 2021