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コレリ大尉のマンドリンのtakのレビュー・感想・評価

コレリ大尉のマンドリン(2001年製作の映画)
3.6
シェークスピアの言葉にこんなのがある。
”自らの中に音楽を持たぬ者を信用するなかれ”
僕はこの言葉を初めて聴いて、 ”音楽を持たぬ者”=周りと調和できない者 と言うイメージを抱いた。音楽の持つ力は偉大だ。人の心をその旋律で踊らせもするし沈ませもする。

僕は映像と音楽が見事に絡み合った映画が好きだ。この「コレリ大尉のマンドリン」もそのひとつ。音楽に魅せられた軍人アントニオ・コレリは、お気楽なように見えて、ちゃんと信念を持つ人だし、明るいイタリア人らしく人生を肯定的にとらえる人だ。”ハイル・プッチーニ!”や”人生のどんな場面にも音楽はある”といった台詞の端々に、彼の音楽と向かい合う気持ちや生き様が見えてくる。占領軍としてギリシャに入った彼らだが、ドイツ軍人たちとは異なりギリシャの人々との明るい交流もできた。まさに”音楽を持つ者”なのだろう。しかし後半は明るく音楽を語って生きてはいけない現実にぶつかる。実戦経験がなかった大尉が銃を握らざるを得なくなる。歌ってばかりでは生きられない現実。

ギリシャ側の人々の強さも心に残る。戦争に地震に平穏を乱されても、強く生きている人々。ジョン・ハート演ずるペラギアの父が恋と愛の違いを娘に諭すシーンがあるが、ここの台詞も実に印象的だ。ペネロペ・クルス主演作はこれが初めて。惚れました。

この映画には明るい音楽があり、厳しい現実がある。また恋する喜びとヒューマニズム、悲しみの涙もある。この映画を観た日の数日前、スクリーンのこちら側の現実世界では9月11日の同時多発テロが起こった。それを境に、世の中はどんな方向に進むのか混沌としている。僕はそれでもこの映画のように音楽の持つ力=調和が世界に通ずることを信じたい。そんな気持ちでいっぱいになって、映画館を出て家路についた。
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