天豆てんまめ

疑惑の影の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

疑惑の影(1942年製作の映画)
3.2
平和の家庭に忍び寄る疑惑の影。というサスペンス定番の面白さがあると思う。優しくて紳士な叔父さんがある日やってきて、家族みんな喜ぶのだけど、実は恐ろしい二面性があって、それに長女が気づく。という分かりやすい設定。長女だけが気づいてしまうというドキドキと、逆に気づいたことを気づかれて、命を狙われるというハラハラが合わさり、最後まで楽しめる。長女役のテレサ・ライトも可憐で美しく、叔父さんのジョセフ・コットンも渋くてかっこいいが故に、実は途轍もないクズぶりが効いてくる。

ヒッチコック作品はどの作品も外れが少ないと思うけど、それは今観ても、脚本展開・映像美・音楽・音響効果と編集テンポが考え尽されているから。だから冒頭からクライマックスまで緊張感が途切れず、濃いドラマツルギーをしっかりを受け止められる。

昔、フランスの名匠フランソワ・トリュフォーが、ヒッチコックが大好き過ぎて(作風、真逆なのに、と思っちゃうけど)彼の総合演出の秘訣を解くために、全作品の製作法をインタビューして書き上げた「映画術」という映画本のバイブルのような書籍があって(350頁で分厚いB5サイズの大判で重い、、で4000円もしたけど10年前に買って以来、書棚の飾りとなっています、、)そこでヒッチコックは、悪人を主人公に据えることの魅力と、悪人はすべからくクロなのではなく、善人もすべからくシロではない、人間は皆グレーであるのだから、そこを大切に描きたいと話している。

この作品もまたジョセフ・コットン演じる叔父さんを、理想主義的悪そして魅力的に描いているので、その辺りの人物像も十分に堪能できると思う。