垂直落下式サミング

カッパの三平の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

カッパの三平(1993年製作の映画)
3.5
河童に似た顔立ちの河原三平少年が、河童たちが隠れ家とする秘境に迷いこんでしまうおはなし。子供カッパのガータローや人語を話す黒タヌキなど、少年と人ならざる友達との交流をメインストーリーとして、人間と動物と妖怪が野山で一緒に暮らす牧歌的な世界を描いている。
三平は親父が毒親。ガータローはモラトリアム延長したい留学ニート。じいさん河童は頑固者で老害。死神は妻子持ちの貧乏リーマン。一角鬼は不眠症。みな生活の悩みが現代的である。
中流家庭を夢見る貧乏死神が失態をおかしてリストラを恐れ、死神から大妖怪の子分に転職しようと履歴書を持参するなど、コミカルなようで切実な問題であり、この時節柄涙ぐましいものを感じる。護廷十三隊は募集停止中らしい。
最後の戦いで、自らの死を悟った一角鬼が三平たちへの攻撃をやめるのは、水木しげる漫画らしいヒューマニズム。ついさっきまで怒り狂っていた敵の口から「お前たちまで死ぬことはないからはやく逃げろ」という言葉が出てくるのは、『総員玉砕せよ!』の渦中にいた一兵卒がこうあって欲しいと願った人間の姿であり、妖怪たちが守っている秩序なのだと思う。
本当に底意地の悪い悪党だったら、閉じ込めたり道連れにしようとしたりするはずだが、一角鬼は勝負のついた戦いは続けるだけ無駄だとする筋道の通った価値観を大切にしている。
ここにおいて、住み処を奪われた山の妖怪たちが何度反撃してもトンネル工事をやめない人間の方が異常ではないかと、資本主義社会批判か、もしくは人間の文明の有り様そのものへ問題を提起しているものと思われる。