現実と喜劇の境界線。
「幸せって日常の積み重ねだよね」なんて言える佳作。
いやぁ。さすがは吉田恵介監督。
派手な場面なんて一つもないのに、心に爪痕を残していく作品でした。特にダメな大人たちを描かせたら天下一品。その演出に応える宮迫博之さんも素晴らしいですね。冒頭からして「ああ、こんな職長さんって建設現場にいるよね」と思うくらいに自然体。
また、女優さんたちも魅力的でした。
しかも、お人形さんのように作った顔ではなく、現実に即した表情を切り取っているから、共感しやすいのです。例えば、仲里依紗さんの泣き顔。接写で撮ることにより、彼女の“リアル”に肉薄していました。
同様に麻生久美子さんの場合も。
「メチャ美人!」とは言えない役柄なのですが、物語の節々で「おっ」と惹き込まれる表情を見せてくれるのです。そして「彼女の真実は何処にあるのだろう」なんて考えてしまったら…もう監督さんの思うつぼ。
だから、僕が思うに。
吉田監督は日常を“見る”のではなく“観ている”のでしょう。一歩間違えればコントすれすれのコメディ表現が活きるのも、その観察眼の成せる業。シリアスな場面の横で、斉藤洋介さんが笑いを取りに行く…という構成は、容易に出来ることではありません。
しかも、笑える場面ばかりではなく。
これはヤバいかも…なんて背中に寒いものが走る描写もあるのです。この落差が見事ですよね。『ヒメアノ~ル』の監督に抜擢されたのも頷ける話です。この実力を見逃さなかった映画会社の人たちは良い仕事をしました。
ただ、あえて難を言うならば。
物語前半はコメディ要素が強すぎた気がします。
過剰な“笑い”は現実描写を損ないますからね。後半の展開を見据えて、筆を抑えた方が良かった気がします。でも、このあたりのさじ加減は難しいですよね。笑いのツボは人それぞれですしね。
まあ、そんなわけで。
胃もたれした部分はありましたが、心に残る作品でした。というか“純喫茶磯辺”が東京の下町にあってもおかしくない…そんな現実感はなかなか味わえないものだと思います。また、ダメな大人の物語ですからね。自覚している人にもお薦めです。
あと、吉田恵介監督の作品を追い続けた人へのプレゼントとして“友情出演”もありますよ。