イルーナ

ヴィデオドロームのイルーナのレビュー・感想・評価

ヴィデオドローム(1982年製作の映画)
3.6
『ブレードランナーの未来世紀』にて紹介されていたのを見てから、ずっと心の片隅に引っかかり続けていた作品。
80年代でもっとも難解な映画で、時代を先取りしたメディア論。そしてクローネンバーグ監督自体、思想がマッドサイエンティストそのもの。
「こんな絵に描いたようなマッドサイエンティストが映画界にいたんだ……」と衝撃を受けました。
しかしその発言は妙に納得できるものが多いのもまた事実。
「新しいものは奇怪に見える。でも、人々がそれを美しいものだと感じるまで突き進んでこそ真の革命だろう」
常識も良識も揺さぶるその思想。この本で紹介されていた『ビデオドローム』はいかなるものか?

暴力やセックスを売りにする零細テレビ局・シビックTVの社長・マックス。
さらなる刺激を求めて「ビデオドローム」なるスナッフ映像を教えてもらったところ、それに取りつかれ、次第に現実と妄想の境目があやふやになっていく……
過激な映像が収められたベータビデオが「ビデオドローム」のことなのかと思いきや、映像そのものだったり電気信号だったり。
この時点で難解ですが、マーシャル・マクルーハンのメディア論かぁ……まことに不勉強なもので申し訳ないです。
しかし、メガネもメディアも、人間の機能を拡張させるために作られたもの。
現代のスマホやPCなんか、必需品どころか、もはや体の一部と言っていいでしょう。無機物は常に人間の体と一体化しようとしている……
この辺は不勉強でもストンと腑に落ちますが、「脳腫瘍が新しい器官となって認識の進化を促す」ってすごい発想ですよね。
「病気だと思われていることが、実は進化の新しい段階かもしれない」とは監督の言葉ですが、もう私たちにとって完全に理解が及ばない領域です……

そしてこの作品、やっぱりビジュアル面が強烈。
ビデオが脈打つように動き出すところなんかギョッとしました。まさに異界への扉が開かれたって感じで。
テレビの画面越しのキス(というかセックス)やSMプレイ。
お腹くぱぁ。拳銃からドリル状のものが突き出て手を貫き、ヌラヌラと融合していく。しかもそれは癌細胞を撃ちだすシロモノ。
無機物と生命、そして性の融合はやっぱり気持ち悪くていいですね。
この時代に観ると特撮は手作り感があるのですが、クライマックスで全身癌細胞に食い破られて血糊やら臓物やらを吹き出しながらグチョグチョになっていく黒幕のシーンは今観ても古さを感じさせません。

にしても、今の時代はまさに現実がフィクションを超えたって感じですよね。
ネットなら本作の「ビデオドローム」より過激な映像はいくらでも観られるし、スマホやPCでどこでも情報にアクセスできるから、まさに私たちは「ビデオドローム」に飲まれた存在。
「ビデオドローム」は滅ぼせないそうですが、やはり目に見えないどこかで進化し続けているのでしょうかね……
イルーナ

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