マッテリー

モンスターのマッテリーのレビュー・感想・評価

モンスター(2003年製作の映画)
4.5
「怒りの中の一瞬の忍耐が、あなたを一生の後悔から救い出してくれる。」
ある瞑想アプリで知った格言。
劣悪な環境で育った主人公が唯一心を許せる人物と出会い束の間の幸せな時間を送るも、ある出来事をきっかけに人生が狂い始める。
私のイメージするシリアルキラーとは程遠く、きっかけになった事件の展開は誰にでも起こりえる。
グロテスクな描写はほとんど無く、メインは主人公とヒロインのラブストーリー。
主人公の「殺人」は決して許されないが周りの人間はまったくの白なのか。モンスターとは誰のことなのか。
法的に、道徳的に、人間として、色々な見方で受け取り方が変わる作品。
主人公があの日、別の選択をしていたらヒロインとの幸せな人生が待っていたのかもしれない。
しかし時間を巻き戻すことは出来ない。
だからこそ、この格言のように何事にも冷静でいたい。








-----ネタバレあり-----








2回鑑賞。
序盤は2人の初々しいやり取りに見ているこっちまで癒された。
幸せな二人がどんどん道を外れていく様が残酷。
アイリーンに殺された人たちの生い立ちには触れられていないだけで、アイリーンたちと同じように被害者にも人生(ストーリー)があり
アイリーンによって人生に終止符を打たれた。アイリーンのしたことは間違い以外の何でもない。
その上で、セルビーのモンスターぶりも尋常じゃない。海外レビューでも結構叩かれていた。

個人的にセルビー役のクリスティナ・リッチの演技力が素晴らしいと感じた。
ローラースケートのシーン、カップルタイムになって恥ずかしがるセルビーをリードするアイリーンが男らしくて(女性だけど)かっこいい。BGMと二人が似合いすぎる。

映画が進むにつれて垣間見えるセルビーの自己中心的な性格。
「パパが私を救ってくれる。」「パーティするって一度もしない!」「あなた私を利用する気ね!」
半ば無理やり家出させたアイリーンにも責任はあるけど、セルビーも人任せが過ぎないだろうか。
「ギプスを外して私も働くから」と言いつつ、外した後もアイリーン任せだし。

一方でアイリーンは好きな人のために盲目になるタイプの印象。
イメージするシリアルキラーとは程遠いと書いたが、人を殺した後にいつも通り生活を送る神経はやはり普通ではない。
1人目を除いて、アイリーンが完全に黒な殺害ばかりが続くところは同情出来ない。
(海外記事にはドキュメンタリー監督のニック•ブルームフィールドに撮影外で、全ての殺人は自己防衛だったが刑務所での長い生活が苦痛だったために嘘の供述をしたとも書かれていました。)

1人目 自身がレイプされ正当防衛で射殺
2人目 小児愛っぽい男に嫌悪感を抱き射殺
3人目 アイリーンに同情してその場を去ろうとする男を射殺
4人目 うっかり銃を落としてしまい男に正体がバレてやむを得ず射殺

アイリーンと付き合いながらも他の女をナンパしたり
その女友達とテーマパークで遊ぶためにアイリーンにお金を稼がせ
テーマパークではアイリーン放置で女友達に夢中。
女友達が脈なしと分かりアイリーンの元に戻れば
優しい言葉を投げかける。2面性があるのか本心が分からない。
アイリーンが不信感を抱いたような描写があったが
唯一愛したセルビーを信じたかったんだろうと思いせつない。

殺害した男性が警官だったとアイリーンに打ち明けられた直後にも関わらず
自分たちの夢のために車を手に入れてくれとアイリーンにせがむ辺りから
セルビーは殺しを黙認しているようにしか見えなかった。

似顔絵が公開された時にも「私の顔」と自分が第一で
アイリーンが刑務所に入った後の通話でも「あなたがしたことで私が刑務所へ」と発言。
もちろんその通りなんだけど、アイリーンを本当に愛しているのか疑問に思う点が多々あり。
(海外記事には、「警察がセルビーの家族に尋問していて、セルビーが殺人犯として扱われることを恐れているとセルビー自身から伝えるように指示されていた。」ようなことが書かれていました。)
一方で、通話中に司法取引を察したアイリーンは、愛するセルビーの人生を思い自白。
野蛮な性格で目的のためなら人の命も奪う、良く言えば一途なアイリーンに比べて
セルビーは世渡りが上手く、無意識に周りの人間を振り回すタイプで、本心がどこにあるのか分からないと感じた。

法律を除いて、1つの物差しだけでは善悪は図れないし絶対的な答えもないから難しい。


「常軌を逸した人間」と決めつけて、考えることを辞めるのではなく
性格や環境、周りの人間関係にまでフォーカスして考える機会を与えてくれたこの作品に感謝。

作中の裁判シーンは海外サイトで当時の映像を見ることが出来る。