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バベルのRenのレビュー・感想・評価

バベル(2006年製作の映画)
3.5
【バベルの塔】旧約聖書に登場する巨大な塔。かつて人間は、人々が世界中に散らばることの無いよう天まで届く塔をつくろうと考えた。しかし神はその塔を見て「人間は皆が同じ言語を話すが故にこのようなことを始めた。人々の言語を乱し、互いに通じ合えないようにしよう」としたため、互いの言語は分たれ、人々は混乱し、世界各国へ散らばった。
(Wikipediaより)

少なくともこれが平均スコア3.2な訳がない、と思った。
モロッコで発生した銃撃事件を軸に、
○ 旅行中の夫婦(の妻)を狙撃した犯人=モロッコ
○ メキシコへ向かう夫婦の子ども達とその乳母=アメリカ&メキシコ
○ 被害に遭った夫婦=モロッコ
○ 使われた銃の元所持者の男とその聾の娘=日本
を描いていく。群像劇としてここまで個々のエピソードが独立しているのも珍しく、あらすじを知らずに観始めた人は別作品が始まったかと困惑するだろうレベルでカラーの異なる4軸が並行して進む。
全てのパートが単体の中編作品として成り立っている。なので本作を真に成り立たせるなら上映時間は実は3時間以上必要だったのでは。"薄い" と感じた人の意見も分かる。

中編×4本の構成なので詰め込み過ぎ・エピソード多すぎな印象も受けるけど、基本的には「異国or異言語故の分断」しか描かれない。モロッコ/アメリカ、アメリカ/メキシコ、更に 声に出す/出せない が生む分断まで。
そんな状況下で、彼らの「生きること、生の実感」をひたすらに映す。生への欲求、衝動に動かされ、様々な人物が2択を外して駄目なほうへ堕ちていく。
詰まるところ、てんでバラバラなエピソードを描いているように見えてやりたいことはずーっと同じ。小なり大なりメッセージに一切のブレが無く、言語がバラバラな人々を描いた21世紀の聖書として高性能。

じゃあ映画にしなくても教本でいいじゃないかとも言われそうだけど、やはり世界各国の景色を巡る楽しさは映像作品ならではのもの。日本パートの綿谷父娘が住む高層マンションも視覚表現として面白かった。あれこそがバベルの塔だ。分断の原因となった塔の、天に最も近い場所で「分かり合えた」ような、一種の突破口が見えたような演出が印象的。

その他、
○ どのキャラクターも生き生きしているというよりかは、全員がメッセージの代弁者のような印象。その辺りも聖書っぽい。
○ 元凶は全てモロッコの兄弟の弟にあり。
○ 警官狙撃と並んで今作を代表する悪手である、メキシコ国境での一幕には同情も納得もあまりできない。あなたにも非は十分にあるよと言いたい。アメリカとメキシコの分断を描くにはあれだと若干ブレる気がした。
○ メインストーリーへの絡みがあまりに薄く浮きまくっている日本パート。見応えだけはあるので、これもまた今作が歪に見られる原因か。
○ 私はやはり千恵子がクラブに入ったときの音が聞こえたり/聞こえなくなったりするシーン(しかもそのときの音楽は私の大好きなEW&Fの『September』)がシンプルだけど好き。ああいう些細な演出をもっと楽しみたかったのが本音。
○『セブン』然り、悲劇に巻き込まれるブラピはやはり良い。
○ サブテーマとして、「そんな世界で割を食うのは子ども達」というのがあるのでは?
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