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バベルのtakのレビュー・感想・評価

バベル(2006年製作の映画)
3.0
一発の銃弾が引き起こした悲劇。運命を狂わす出来事は小さなことから起りうるものなのだ。あのとき少年がバスに向けて引き金を引かなければ、弾が逸れていれば・・・役所浩司扮する登場人物がガイドのモロッコ人にライフルを渡していなければ・・・ベビーシッターさえ見つかっていれば・・・でもそれはとりかえしのつかないこと。

メキシコ国境のどこまでも続く荒野を見ていて、観客として観ているこちらまで途方に暮れてしまいそうになった。仕事帰りの疲れた体で観るには重すぎる映画。物語のせいもあるけれど、途中息苦しさを感じて何度もドリンクを口に運んだ。そして問題とされた点滅場面。僕は大丈夫でした。「フラッシュダンス」で慣れているせいなのか?。

似たような群像ドラマであれば「クラッシュ」の方がはるかに好き。まだ何が起るのか?というドキドキがあったからだ。「バベル」にはそれがない。神の怒りに触れて崩れゆくバベルの塔のように、世界を支えていたバランスも小さなことから崩れていく。確かにキツい映画だけれど、この映画は観客を引き込む力がある。苦しいんだけど見届けねば気が済まない。

ブラピとケイト・ブランシェット夫妻がどうなるのか。菊池凛子扮する女子高生は父親との関係を再生できるのか。確かに日本のパートはややとってつけたような感じがするけれど、娘の満たされない気持ちと孤独感がこちらにもひしひしと伝わり、丁寧に撮られたエピソードだ。余韻を残すラストシーンと、坂本龍一の「美貌の青空」が記憶に強く刻まれる。

複数のエピソードが絡み合う構成も、ラストで綺麗にまとまりをみせる。ブラピが電話口で泣き崩れる場面で時間軸のずれをきちんと理解できたときにこの脚本の巧さがわかるだろう。僕にとっては繰り返し観たい物語ではない。でもあの広々としたメキシコ国境の荒野とモロッコの風景は、きっと記憶に何度もよみがえることだろう。
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