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袋小路のkaomatsuのレビュー・感想・評価

袋小路(1965年製作の映画)
3.5
干潮時は本国と陸続きとなり、満潮時は孤島となる、イギリスのとある島。この、海面の潮汐という自然環境の変化を最大限に活用し、ある夫婦が世俗を離れて住む島の古城に、突然負傷したギャングが訪れることで、夫婦の(主には夫の精神的な)日常が崩壊していくことの不条理さを、スリリングかつ笑えないジョーク満載で描いた、ロマン・ポランスキー監督の長編三作目だ。こういう闖入者系の映画は、『テオレマ』や『家族の肖像』『家族ゲーム』同様、なぜか昔から好んで観ている。

孤島の古城に住む新婚のジョージ(ドナルド・プレザンス)とテレサ(フランソワーズ・ドルレアック)夫婦のもとに、突然ギャングのリチャード(ライオネル・スタンダー)が訪れる。悪事をやらかして銃弾を受け、負傷して追われる身のリチャードは、自身をかくまうことと、満潮にハマった車の移動や、重傷を負って車から出られない仲間のギャングの救出を夫婦に強要する。が、間もなく仲間は死亡。リチャードはボスを呼ぶが、ボスが訪れるはずの日に、タイミングが悪いことに、ジョージの友人家族が古城を訪問。気まずいリチャードは召使の役に転じる。プレイボーイ風の友人とテレサとの意味深な接近ぶりや、友人の息子のやりたい放題のわがままさなどにイラついたジョージは、最後にはブチ切れて、皆を強制的に追い返す。疲れ果て、しばしの沈黙のあと、再びリチャードと夫婦は対峙することとなり…。

闖入者によって破壊される日常と、闖入者だけでなく、被害者だと思われていた夫とその妻、そして夫の友人ら、すべての人物のネジの緩み具合が実にヘンテコでおかしく、かといって、その笑いは果てしなく凍りついていて、常にブラックな雰囲気が漂う。中でも、ジョージの友人家族が訪問したシーンで、手の付けられない悪ガキっぷりを発揮した友人の息子の行いを観るにつけ、小津安二郎監督の数編の傑作に登場した、憎ったらしくて可愛いげのかけらもない子供たちと同様のものを感じてしまった。そして、名優ドナルド・プレザンスのブチ切れ演技も滑稽ながら、やはりフランソワーズ・ドルレアックの妖しい魅力に尽きる。実妹のカトリーヌ・ドヌーヴよりも快活そうで、手足もスラリと長く、すべての仕草が、いや、動いていないときでさえ、究極にスタイリッシュだ。彼女の早逝が本当に惜しまれる。

これを機に、ほとんど素通りしていたポランスキー作品をじっくり観てみようかな…。
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