みんと

袋小路のみんとのネタバレレビュー・内容・結末

袋小路(1965年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

狂気と正気は表裏一体で、それが世界に溢れているという恐怖。


テレサは、リチャードに抵抗しないジョージに腹立たしく思う。これは普通だった。しかし、それ以外は全部と言っていいほど非常識。浮気はするし幼稚なところはあるし、そもそもジョージとの結婚も財産目当てだろう。

リチャードは、犯罪者で傲慢だ。しかし中盤から分かる人間らしさ、人の好さ。例えば、あまりに無防備な格好のテレサに一切手を出すこともないし、夫にテレサの浮気をチクることもしない。

ジョージは、若妻と城を手に入れ完璧な余生を夢見る、欲張りな男。その上、男らしさなんて一ミリもない。私が一番印象的だったのは、毎回女性で同じ失敗をしてきた彼(憶測だが)が、ラストでテレサではなく前妻のアグネスの名前を口にしたこと。彼女と別れて元カノに手を出す情けない男のよう(笑)
ポイントは、そんな彼にリチャードが同情しているように思えることだと思う。海辺で二人が会話をするシーンで、ジョージは若妻テレサを「かわいい小悪魔」だと表現するくらい愛していながらも彼女に翻弄される情けない男の姿をリチャードに見せるが、そんな彼にリチャードは彼女の浮気を密告するどころか、同情しているようにも思える。
ジョージとリチャードの類似性。つまり、似た男が一人の女の本性によって最悪の結末を迎える、という不条理劇。

まとめると、3人の負の部分は「人の財産を羨むこと」や「欲深くなること」や「自分の利害しか考えないこと」であると思う。しかし、これらは正直誰でも共感できることなのでは。面白いのは、ある意味「普通」かもしれない二人が、テレサによって人生が狂うということ、そしてそんな彼女の欲深さやずる賢さも、ある意味人間の「普通」の部分だということ。

人間の「善」と「悪」は両方人間の本性であり、両方あっての「普通」の人間。それを淡々と描くことで、淡々とした日常の人間関係に潜む、人間の「本性」の恐怖を伝えたかったのかな?
こう考えるととっても面白くて、怖い作品だ。

ポランスキー初期映画3本目だったが、総じて本当に美しいモノクロの世界だった。正直本作は「水の中のナイフ」と「反撥」に比べ、入り込みにくいと感じてしまった。しかしそのように、ポランスキー自らが経験し、そして映画で表現した人間の本性の恐怖を身近に感じられないことは、ありがたいことなのか、井の中の蛙大海を知らず状態なのか。

ポランスキーの悲惨な人生と人生観に、更に興味が湧く作品だった。
みんと

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