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(500)日のサマーのbibooのネタバレレビュー・内容・結末

(500)日のサマー(2009年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

可愛くて爽やかなビジュアルパッケージのイメージで誤解して見てない人多いんじゃないかなと思う。私もその一人だった。どうせ若い男女の甘酸っぱいちちくりあいなんでしょみたいな軽い気持ちで見始めたら、ワンシーン目で「きっとそんな話だと思って見てるあんた、この話は違うよ」っていうトムからのエクスキューズにカウンターを食らう。側が爽やかだから一見わかりずらいけど、見進めれば見進めるほどさりげなく巧妙な構成に引き込まれていく。トムがサマーに恋をして破れたという時系列通りだとどこにでもありそうななんてことないものを、並び替えるだけでこうもほろ苦さが倍増するものかと思う。リアリティの織り込み方が絶妙で、心臓の底の方から苦さが湧き上がってきてついストーリーと重ねて自分語りしそうになる感じ、「花束みたいな恋をした」を見たときとおんなじ引きずり方だった。

最初のうちはサマーも気持ちに応えてくれてるように見えて良い感じじゃんなんて思うんだけど、クライマックスにつれてサマーは最初からちょいちょい「NO」を出してたんだなとわかる。というか、トムの情けなさがちょいちょい垣間見えるので、サマーがわかりやすくNOを出さなくても「あっ無いかもな」って察する。確かに「友達」と言いつつ惑わすようなことをして傷つけたサマーにも悪いところはあるけど、さりげなくスキンシップしたり話す時に距離が近かったり相手の懐に入るのが上手い人っている。それがわざとじゃなくてナチュラルにやっちゃう人おるよな。トムはそういう子に免疫ない時に出会っちゃって惑わされてしまったんだな。
関係をはっきりさせないサマーにイラついてトムは随所で全部彼女のせいにして責めてたし、酒場でウザ絡みしてきた輩に対して殴るシーンは自分の男性性を認めさせたいマッチョなプライドのために殴ったのは明らかなのに「君のために殴ったのに」とか言うし、追い詰められた時の決めつけと自惚れが露呈する感じが子供っぽくて、見進めるほどに付き合わなかったのはなるべくしてなったんだなと思える。今作を検索するとサジェストで「サマー 嫌い」と出てくるんだけど、冷静に見ればお互い様だし、彼女の「この人じゃない感」は納得だし、サマーのような人に身に覚えがある人多いと思うからどっちが嫌いと決めつける話じゃない気がしてる。
ただ、筆下ろしに成功して突然ミュージカル調になるシーンは笑った。好きな人とうまくいきまくってる時の、世界が自分に味方してると思えちゃう感じが端的に表れてて最高だった。

そんな情けない男の凝縮というか、男が大人になるまでの成長痛のような作品。「大丈夫、この経験を経てこのあと大人になれるよ…」とトムの肩を抱きたい気持ちになる。運命だと思い込んで恋に盲目になった男がラストで運命なんてものはほとんどなくて、奇跡や偶然の積み重ねが運命にするんだと悟る脚本が素晴らしい。その悟りを経て偶然を逃すまいとオータムをコーヒーに誘うエンディングがこれまた爽やかで気持ちが良い。トムの情けなさはジョセフ・ゴードン=レヴィットの甘いマスクだから許されている。
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