ソクーロフが描く死にゆく母と息子の愛のひととき。ノスタルジックな映像美でした。セピアカラーで遠近感がなく、まるでアルバムの想い出の写真か、母が読んでくれた絵本のよう。
二人が見つめあう姿、永遠に二人に記憶されたのだと思います。
病んだ母を見取ることの怖さ、息子を残していけない母の怖さ、二人は死を迎えることを恐れながら、残された時間に、母が望んだ散歩をします。
痩せ細った母を抱きかかえ、野山を歩く息子。「日陽はしづかに発酵する…」の医師役だったアレクセイ・アナニシノフでした。
ちょっと思い出してうるうるしました。
ひたすら美しい母と息子の安らかな時間でした。
タルコフスキーの「鏡」で、草原をわたり吹いてやって来る風が映像化されていましたが、ソクーロフの描く草原の風はあちらへ行ってしまう風でした。去りゆく魂の表現を風で表しているのではないかと感じました。
💓映画の翌日、「重要文化財の秘密展」(国立近代美術館~5/14まで)を観に行ったら、日本画の掛け軸の展示の前で、ふと気がつきました。
✨ソクーロフの歪んだ遠近のない空間と、強調したいものが大きかったり、異次元が混在しているのは、まるで日本画と同じ!日本贔屓のソクーロフは画の中に、日本画の手法を用いたのではないかと感じました。違うかもだけれど、同一画の中に時間の経過や複数の出来事まで含む遠近法用いない日本画の独特の手法を実験したんじゃないかと気づいて嬉しくなりました。