れれれざうるす

ふたりのベロニカのれれれざうるすのレビュー・感想・評価

ふたりのベロニカ(1991年製作の映画)
3.6
同年同日同時刻に生まれたポーランドのベロニカとフランスのベロニカ。顔も声も音楽の才能も全て同じ。だけど2人が交わることも影響し合うこともない。ポーランドのベロニカが舞台中に死んでから運命が交錯する。フランスのベロニカが最も知れぬ喪失感に突如襲われるのだ。ただそれだけである。そしてフランスのベロニカは初めての恋をする。相手は人形作家。この人形劇が又しても時が止まるほど美しい。むしろ美しいだけじゃ形容出来ぬほど幻想的で、別の世界にいる様な錯覚をもたらす。ドッペルゲンガーだとか瓜二つだとか双子だとか真相や結末などはどうだっていい。ただただ触れると壊れてしまいそうな繊細な映像を、夢の中をふわふわ浮く気持ちで眺めていれば良いんです。キェシロフスキーなのでもちろん基本的に画面は暗いが、時折射し込む光の使い方が上手い。それすらも冷たく感じるのもまた良し。

何と言っても主演のイレーヌ・ジャコブの美貌と演技力に尽きる。勝気な美しさではなく気安く近付けない様な脆く儚い感じ。こればっかりは見ないと伝わらないかもしれない。ポーランド語とフランス語を巧みに操る(のかは日本語オンリーの私にはわからないが。)ので別の人物に見えるのは見事。個人的にはポーランドのベロニカが好き。

キェシロフスキー作品ってポーランドの政治や歴史に詳しくないと全て理解出来ないのが多いから本作もきっといろいろ暗喩があっただろうけど、とにかくこの神秘的で物哀しい物語を観るだけでも価値があった。