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ふたりのベロニカの海のレビュー・感想・評価

ふたりのベロニカ(1991年製作の映画)
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孤独とか、愛情とか安心とか、わずかな希望とか、そういうものが、からだのなかでぐちゃぐちゃにからまってどうしようもなくなることがある。ずっとそんな日がつづいていて、見たことない映画を観ることさえためらって、本を読むかラジオを聴くか眠るかしかできなかった。わたしのこのからだと心が、あたらしいなにかを感じなくなったときのことを考えた。孤独とか、愛とか安心とかほんのすこしの希望に見向きもしなくなる日が、もしもきたとき、毎日変わることも、毎日変わらないことも、それがどんなにありえないことだとしても、きてしまったらわたしはどうするんだろうと考えてた。悲しいっておもえばおもうほど、それをどんなふうに表現すれば嘘にならずにすむのかわからない。あくびしたって涙は出るし、気持ちよくたって声はでるし、痛む胸は見えも聞こえもしない。今夜は眠いと泣きたいの違いさえわからないくせに、明日の夕方はわかった気になってるかもしれない。勝手だ、ってわたしがわたしにおこってる。ベロニカの、涙に濡れた赤い唇に、眠りからさめた言葉に、確かめるようにそっと落とされていくキスを見ているとき、ふと浮かんできた詩があった。「唇でふれる唇ほどやわらかなものはない」どこで読んで、誰につたえるつもりだったのか、おぼえたはずなのに思い出せなかった。そんな泡沫みたいな言葉が、わたしのなかに、数えきれないほどたくさんあるということ。ひとが語る愛のなかには、季節があり色があり光があって、その相手がいる。あなたの目に映る、わたしには明るさがある。明るい、が見える。そこで、踊りたいの。
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