いろどり

ノスフェラトゥのいろどりのレビュー・感想・評価

ノスフェラトゥ(1978年製作の映画)
3.7
なんて美しいゴシック怪奇幻想の世界。

序盤は穏やかかつ壮大な音楽が幽玄の世界へと誘う。河岸に大きな船が着く場面から、「フィツカラルド」を思わせるヘルツォークの世界観。

オープニングで邪気のない可愛い猫が映る違和感。
中世がよく似合うイザベル・アジャーニ。黒目がすべて見えるほど大きく見開いた先に映る邪(よこしま)な世界。

ムルナウの「吸血鬼ノスフェラトゥ」でもお気に入りだった葬列シーンは、今作でもゴシックホラーの退廃的な美を完成させている。

白いネズミの大群は、禍々しさと美しさが同居した幻想的リアリズム。たとえ司る神が善ではなく悪魔であろうと、この世を超越した神秘性を感じさせる。

キンスキーはそのままで十分、孤独感や恐怖を表現できる俳優なので、変に装飾をほどこした容姿に逆にしらけてしまう部分がある。剃った頭もネズミのような前歯もやりすぎで、作り物感が増してしまった。

ヘルツォークともあろう人がキンスキーのポテンシャルを見抜いていないわけもなさそうなので、これはあえての作りもの感なのかもしれないけど、これはお笑いと紙一重。

ムルナウの映画化の際は著作権の関係でドラキュラという固有名詞が使えなかったけど、今作では小説の著作権が切れパブリックドメインになったので晴れ晴れとドラキュラを使用。

美しい古典怪奇幻想の世界を堪能できた。
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