シズヲ

荒野の決闘のシズヲのレビュー・感想・評価

荒野の決闘(1946年製作の映画)
4.0
※再レビュー

保安官ワイアット・アープ、かの有名な“OK牧場の決闘”へと至るまでのドラマを描く西部劇。基本的にはロマンスとドラマが軸足になっているので、群像劇とアクションを兼ね備えた『駅馬車』の対局めいている。ドクを巡る三角関係や終盤の“手術”で再起へと至る構成など、久々に見てみると『フロンティア・マーシャル』をフォード流に変奏している作品であることが伝わってくる。そして同時期の西部劇などと比べても、格式の高い映像と簡潔かつ端的な場面構成に唸らされる。フォードの演出力の高さが画面から滲み出ている。情緒に溢れる『いとしのクレメンタイン』、やはりとても良い。

スタジオとは一線を画したセットの臨場感が、ひたすら的確な撮影によって映し出されていく。冒頭からフォード映画恒例のモニュメントバレーの広大さが印象深い。そして全編に渡って顕著なのは映像の奥行きと陰影の美しさで、白黒のコントラストと画面構成の秀逸さに兎に角舌を巻く。影に満ちた夜の酒場、空をバックに語らうドクとクレメンタイン、OK牧場へと現れるアープのロングショット……いずれのカットも神話的な麗しさに溢れている。宿の廊下を歩くクレメンタイン達を画面の奥から捉えたカットや、ドクが自室にて孤独で酒を呷る場面さえも、モノクロの対照性によって情感のような味わいが生み出されている。

ロマンスと活劇が分離してて何処か座りが悪かった後年の『OK牧場の決斗』と比べると冒頭からクラントン一家との因縁が起点となり、そこからドク・ホリデイとの友情やクレメンタインとチワワを巡るロマンスが展開されている。これらのドラマが簡潔でありながらも十分に印象深いのは、やはり個々のシーンの秀逸さ故である。前述の画面構成の巧みさも相俟ってシーンがビシッと決まっている。アープとクレメンタインが心を通わせる場面、まるで婚約を思わせる教会の鐘と賛美歌をバックに二人で腕を組んで歩く姿の幸福感。とにかく端的に詩情と哀愁が切り出されており、ヘンリー・フォンダら役者陣の端正な演技が作中のムードを効果的に補強している。理髪師や役者の下りなど、要所要所でのユーモラスなテンポ感もさりげなく好き。

ただ、クレメンタインに関してはアープやドク絡みではもう1エピソード欲しかった感はある。そしてチワワがクラントン一家と繋がっていた伏線が劇場公開版では削られてるという話など、フォードの意図しない部分での編集があったのは惜しい。
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