えいがうるふ

仕立て屋の恋のえいがうるふのネタバレレビュー・内容・結末

仕立て屋の恋(1989年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

嫌われ者のキモい陰キャが恋をしたっていいじゃないか(涙)

目に見えるその姿はロマンティックどころかおぞましいが、見えないものが狂おしいほど美しい、とてつもなく残酷な恋の話。
自分にとってはいまだに、髪結いの亭主と並ぶルコントの最高傑作。

「なぜ君は皆から嫌われているのかね?」

初対面でいきなり容赦ないド直球を投げ込んでくる刑事に対し、そんな言われようは慣れっこだと言わんばかりに表情も変えずに「嫌われているが、私も皆が嫌いです」と返す仕立て屋イール。
いきなり痛い。痛すぎる。

そんなイールが一方的に恋い焦がれたのが向かいのアパートに住むアリス。
美しい彼女に陰キャでコミュ障の彼がアプローチできるわけもなく、ひたすら窓からじっとり彼女の生活を覗き見るばかり。その姿は正直いってひたすら不気味。こりゃどんな女でも普通は逃げる。

ところがアリスは自分からそんなイールに近づくのである。もちろんイールに関心があったからではなく、自分を常時監視していた彼に確かめたいことがあったからだ。
イールも最初はちゃんとそれを弁えていて、突然目に前に現れた憧れの彼女に舞い上がりつつも、怯えと疑いでパニックになりあわてて追い返してしまう。
それでも結局、孤独でウブな彼は赤子の手をひねるようにまんまとアリスが仕掛けた恋の妄想に堕ち、彼女を救うヒーローになる夢を見てしまう。
しまいには背中にタトゥー(アリス命?)まで入れちゃう舞い上がりっぷりが痛い、痛すぎる。

イールが愛するアリスと過ごす未来を確信し、幸せの絶頂の中で書いたであろう手紙。
悲劇の後のダメ押しのように己の痛すぎる勘違いを世に晒すその手紙を手にしているのは刑事。つまり、その手紙こそがいずれ彼を裏切ったアリスを追い詰めるだろうことを観る者に暗示している。
なんと皮肉で切ない因果応報エンディングだろうか。秀逸。