slow

エレニの旅のslowのレビュー・感想・評価

エレニの旅(2004年製作の映画)
5.0
霧と草原の奥から水際まで歩いてくる人の群れ。持ち物は少なく、皆一様に疲れ切って見える。先頭には少年と少女が並び、少女はしきりに少年の手を求め握っていた。
彼らはロシア革命によってオデッサを追われたギリシャ人。その少女は戦火の中、死んだ母親に縋り付き泣いていたのだと言う。この難民孤児の少女が、エレニその人である。

歴史の悲しみを心身に背負いながら生きるエレニ。本作は辛く悲しい映画の部類に入ると思う。それでもこの映画が好きだ。監督の確固たる感性で切り取った映像に、圧倒的な説得力を感じるからだ。
車のタイヤの色ひとつとっても、心を掴んで離さない。どこまでが監督の指示するところだったかはわからないけれど、こだわりと映画力に魅せられた。

そして、唸るのが全編通しての汽車の使い方。何処かしらでその汽笛が鳴り響き、前後左右に場面を転換して行く。素晴らしく豪快に繊細な演出をやってのけている。さらに音楽の良さ。楽団員との絆は出会いから何から素敵。
「ヴァイオリンとギターとクラリネットが、君たちを守るよ」
なんて、そんな台詞聞いたことないよ。

悲劇でありながら感動できる映画と言うと、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が浮かんでくる。ビョークの歌声が奇跡の化学反応を起こしたように、どのシーンにも行き届いた情緒と完成美がエレニの悲痛の叫びさえも芸術に昇華させている。
アンゲロプロスの全てが詰まった傑作。