LEONkei

アクロス・ザ・ユニバースのLEONkeiのレビュー・感想・評価

アクロス・ザ・ユニバース(2007年製作の映画)
4.0
かつてイギリス国内有数の産業で栄えていた港湾都市〝リヴァプール〟も、戦後不況の煽りで労働者階級の人々は疲弊する時代に4人の若者が世界中を熱狂させるバンド〝The Beatles〟が誕生した。

一方、アメリカはベトナム戦争真っ只中で国内では反戦・公民権運動など混沌とした動乱の時代、わずか8年間の音楽活動だった〝The Beatles〟が同時期に重なった事は運命かもしれない。

イギリス人とアメリカ人の若者双方の異なる国内事情と考え方・生き方の対比を、〝The Beatles〟の楽曲を通し描いたミュージカル。

冒頭〝リヴァプール〟の冷たい風吹く砂浜で〝ジュード(ジム・スタージェス)〟が唄う〝Girl〟はシンプルで寂しげだが、この先単身動乱のアメリカへ向かう期待と不安が入り交じった表情と歌声がいい。

映画というより〝ジュリー・テイモア〟監督が思い描く〝The Beatles〟のMVを立て続けに見ているようだが、その描き方はアーティスティックで素晴らしい。

〝The Beatles〟にまつわるパロディ場面も有り、幻想的なオリエンタルチックな奇妙で不思議な描写や古き良き古典ミュージカルのセットを組んだスタイリッシュで王道的描写など面白い。

60年代の各場面設定に合わせた衣装や風景も、他の映画にはない表現力は〝ジュリー・テイモア〟の才能が如実に現れている。

本来の〝The Beatles〟の楽曲を周到しながらも〝The Beatles〟の物真似ではなく、雑味を削ぎ落としたようなアレンジは各場面ごとに成立し抽象的概念の中にアートを感じる。

最も印象的なシーンは病院での〝Happiness Is a Warm Gun〟。

さらに言えばこの映画の好感がもてる所は、難しい時代である中で政治的意味を込めず社会的現実を描いたことだろう。

だからこそスーッと〝The Beatles〟の楽曲が自然に入り込み、古臭くもなく重苦しくなく気楽に見れるミュージカルに仕上がっている。

単純なんだけど奥が深いポールやジョンの使う有り得ないコードのように、近現代史の中で最も熱い時代を描いた物語..★,
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