けーはち

灼熱の魂のけーはちのレビュー・感想・評価

灼熱の魂(2010年製作の映画)
4.6
1+1=1…?

ブレラン2049などのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のフランス語作品。カナダの双子の姉弟は急死した母の遺言により、父と兄を捜しに母の故郷へ旅立つ。そこで姉弟は内戦に翻弄された母の凄絶な半生を知ることに……

姉弟が奇妙な遺言の謎に導かれ母親の足跡を辿っていく様子はミステリアスながらコンピューターRPGのおつかいミッションめいた分かりやすいロードムービーで否応なくワクワクを誘うが、そんな気の軽い映画ではないのは観ていればすぐに分かる。といって、つまらない訳ではないのだ。ただシンドい。キレイにまとまった娯楽作品でもありながら語られる内容は艱難辛苦の悲劇、タブーと原罪の重さ、パンドラの箱を開けた禍々しさ──ただ最後にひとつ身を投げうつような覚悟をもってして愛という名の「希望」が残されるような、そんな物語。

気だるげなレディオヘッドの曲をバックに戦地で丸坊主にされる少年兵、踵の3点の入れ墨、祝福されない生をうけた彼の鋭い目が印象に残るオープニング。中東の乾いた光景を切り取るカメラワークに、戦慄するような内戦の惨状と彼らの出自。ミステリー&サスペンスとして、愛または憎悪の結晶としての子どもを巡るメロドラマとしてのフックの強い娯楽性も、悲劇的な文学性や反戦を訴える社会性も含め、打ちのめされるようなパワーがありながら均整のとれた極めて完成度が高い映画だ。