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赤ずきんのNMのレビュー・感想・評価

赤ずきん(2011年製作の映画)
3.4
よく知られた赤ずきんの実写版ではなく、それにインスピレーションを得た別物のサスペンス・ホラー。
話は分かりやすいもののそこまで単純でもなく、意外と見ごたえがある。

舞台となる村の近くには「狼」がいるらしく、定期的に子豚などの動物を生贄にすることで村人への攻撃を避けさせてきた。お陰でここ二十年犠牲者が出ていないが、昔は一家ごと襲われたり子どもがさらわれたりしたという。

生贄を捧げる代わりに人間を襲わないという取引きや取決めが成り立っていたり、襲う人間を選んだりさらったりすることから、単なる動物の狼ではなく人間に化けているいわゆる人狼(普段は人として暮らし、夜は狼になる。ここでは満月の夜に襲うらしい。死ぬと普通の人間に戻る。「血の月」の間に噛まれるとその人も人狼になる。)のようだ。

美少女ヴァレリー。
村の青年ピーターと恋仲。だが親が別の好青年ヘンリーとの結婚を決めてくる。
こうなったら二人で駆け落ちしようかというとき、ヴァレリーの姉ルーシーが人狼に襲われて死んでいるのが見つかる。
生贄を捧げてきたのに、なぜ急に彼女が襲われたのか。これをきっかけに村はパニックに。

実は姉ルーシーはずっとそのヘンリーに片思いしていた。しかしその夜妹と婚約したことを知った。
ヴァレリーはそんな事情はつゆ知らず、自分のことで頭が一杯だった。

村の男たちは狼へ復習すると決起する。もちろんピーターもヘンリーも参加。狼の巣とされる場所へ向かう。
討ち取ってきた狼の頭をかかげ歓喜するが、代わりにヘンリーの父エイドリアンが犠牲となった。

それを知り悲しみに暮れるヴァレリーの母。
冒頭語っていた「私も夫を愛していなかった 他に好きな人がいたの」とはこのエイドリアンのことだった。
実は姉ルーシーはエイドリアンとの子、つまりヘンリーとは兄妹。だから母はどうしてもルーシーではなくヴァレリーを婚約させようとていたのだ。
ちなみに現父セザールはそんなことは知らない様子。ここまであまりストーリーに絡んでこない。
ヘンリーの母がヴァレリーに若干気がかりな態度を取っていたことも筋が通る。

ここで人狼ハンターとして有名なソロモン神父到着。
これがかなりの武闘派で屈強な部下を数人連れており、狼を見つけるためなら犠牲もいとわない。というか心が凍っているようでどうも冷徹過ぎる。忠実そうに見える部下の信頼も実は薄いようだ。
もはや悪役。彼が問題を大きくすらしている面もある。

妻子がいるということは少なくともカトリックではないらしいがどの宗派か実在しない宗派なのか不明。
妻を狼に殺されて以来人狼ハンター専門になったようで、守れなかった自責の念もありつつ人狼に対して並々ならぬ執着心を持っているが、怒りに人としての心を乗っ取られている印象。
実は一番狼の恐怖に屈しているのが彼ではないだろうか。

諸君が仕留めたのはただの狼であり人狼はまだこの村にいる、と神父は告げるが、村人はすっかり喜んでいて忠告を聞かず宴を開く。

そこへ案の定狼が襲ってくる。
動きが速過ぎてまず追いつくのが困難。数人の犠牲が出てしまう。
納屋に逃げたヴァレリーたちに狼が立ちはだかり話しかける。
内容は彼女にしか通じない。
一緒に来い、さもないと全員死ぬと。

神父はこの狼があまりにも強かったことから、人間の姿のときに見つけ出して倒さなければと考える。
このあたりからいわゆる人狼ゲーム状態が本格化してきて、誰が狼なのか村人どうし探り合い、緊張がぐっと高まる。

軽い知的障害がありそうなクロード少年は神父にまっさきに疑われ拷問される。彼が純粋で心優しい人間なのは冒頭からしっかり示されていた。こういうところから差別が始まったのだなあと悲しくなるシーン。なにかトラブルが起こると抗弁できない立場の人から悪者にされていく。

更に、彼の姉でありヴァレリーの親友ロクサーヌが、苦渋の思いでヴァレリーが魔女だという情報を騙ることで弟を取り戻そうとする。狼がヴァレリーに話しかけたことを唯一知るのが彼女。
弟を自由にするには他の誰かを犯人に仕立てるしかないから。
しかしせっかく親友を売ったものの彼はもう拷問死していた。

ヴァレリーが狼の狙いだと判明したため、彼女は幽閉されてしまう。

ここでピーターとヘンリーは協力することを決断。
ピーターはまだ結婚を諦めていないし、ヘンリーは二人が愛し合っているなら身を引くつもりでいる。

ヴァレリーはおとりにされ、狼がやってくる。
神父らはそこを狙うが仕留められず、狼は再びヴァレリーに忠告し去る。

全員怪しいが、明らかにずっと奇妙な雰囲気を醸している女性が一人いる。いよいよ彼女も動き出す。「無理にヴァレリーをかばう必要はないのよ」などという発言もおかしい。質問に答えない。
だが彼女が犯人ではストーリーが単純過ぎる。かえって何か意外な事実を予測させる存在。

ヴァレリーが魔女とされると、かばう者、鵜呑みにして憎む者など様々に態度が分かれる。
今まで仲間だった人たちの態度が二分していくとなると、ヴァレリーも全員を疑うしかない。シロである証拠は誰にもない。

ついに意外な狼が明らかになる。しかし話を聞くともっともで納得がいく。そういうことだったのかと。

「神はいる あなたは悪魔だから」
という台詞が印象に残った。悲惨な状況で神を見出すとはまるで聖女のよう。

ラストが気になる。人狼であっても心が綺麗そうな彼。彼とどういう人生を送ったのか。まさか極端な決断に至っていないと良いが。ヴァレリーの美しい笑顔は優しくもあり妖しくも見える。ただ静かな人生を送ってくれたら良いが。

エンドロールの最後のいたずらにはニヤリとさせられた。

触りだけ吹き替えも見てみたがそちらも悪くなさそうだった。
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