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火の馬のJeffreyのレビュー・感想・評価

火の馬(1964年製作の映画)
4.5
「火の馬」

本作はセルゲイ・パラジャーノフが、1964年にソ連・ウクライナ・ソヴィエト社会主義共和国で製作した作品で、この度YouTubeで紹介するために久々にBDで鑑賞したが素晴らしい。本作はムィハーイロ・コツュブィーンシクィイによる同名の小説"忘れられた祖先の影"を原作とし、フツーリシュチナを舞台に一途な恋愛の末の悲劇を描く作風で、確かロシア映画社が配給になっているが、ATGも配給してたはず。やはり監督の名を一躍有名に知らしめた民族色あふれる傑作だと思う。ウクライナの国民作家の誕生100年を記念して、代表作をもとに、ウクライナのキエフスタジオで制作されている。ウクライナ西部カルパチア山脈を舞台に、ハイ・コントラストな色彩と流麗なカメラワークで、家族同士の積年の対立が招く悲劇を描いた国際的に高く評価された1本だが、国内では公開を控える動きがあり、110分のフィルムから96分に短縮されてしまった事実もある。当時のソ連で問題とされたのは、民族の風俗習慣を強調してエキゾチックに描いたことが、社会主義国家の平等の理念に反すると言うものだったそうだ。それ以上に、葬祭の場面で教会や十字架を侮蔑的に表したり、宗教が民衆の生活や精神に深く根ざしている様子を肯定的に描いていることが、公式なイデオロギーから外れていたためだそうだ。

物語は、反目しあう二つの家の息子と娘が愛し合いながら引き裂かれると言う、山岳民族版ロミオとジュリエットと言われている。原作者のコチュビンスキーは、伝承に根ざした小説を書き、農民や労働者からブルジョアまで様々な階層の人々を描いた。革命的民主主義者でもあり、同時代の作家ゴーリキーと親交があった。発表されている作品はすべて短編で、リアリズムと幻想が交差する本作品は、彼の代表作となっているようだ。パラジャーノフは撮影にあたって、カルパチア山脈に住む山岳民族のフツル人に協力を求めたそうだ。素人を起用するとともに、彼らの風習や儀式を最重視し、撮影期間は1年半に及ぶだそうだ。撮影後に角笛の音を録音する際にも、彼らは祭りの衣装をまとい、楽器に花を飾ってからでないと演奏しなかったみたいだ。この作品は本国での低い評価とは反対に短縮さんがフランスで公開されるや、大きな反響を呼び、ヨーロッパ各地でパラジャーノフの名が知られることになった。日本においても69年に公開されている。
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