イルーナ

MIND GAME マインド・ゲームのイルーナのレビュー・感想・評価

MIND GAME マインド・ゲーム(2004年製作の映画)
5.0
恐らく今まで生きてきた中で最も衝撃を受けた作品。
高校の時初めて観て、次々と予想の斜め上を行くばかりか軽々飛び越していく展開、そして生命力あふれる奇抜な演出に度肝を抜かれたものです。
本当に「何だこの作品は?!これ作った人マジモンの天才だ……!」と思っていたら、実際湯浅監督は日本アニメ界を牽引する存在になった。
湯浅監督作品ではその後も『カイバ』や『夜明け告げるルーのうた』で衝撃を受けたり、涙を搾り取られたりしています。
デビュー作には作者の本質が一番表れると言いますが、その本質とは……

ズバリ「人生讃歌」。

最初はみょんちゃんとの関係で悶々と葛藤する西くんの姿が描かれる。
みょんちゃんの家はどうも一筋縄ではいかないくらい複雑な事情を抱えているらしい。
タイトルからして心理描写がメインの作品かと思いきや……そこへヤクザ襲撃。
ケツに銃弾をぶっこまれて頭まで貫通という情けない死に方をしながらも、神様の元から気合だけで無事(?)生還。
勢いに任せるままにヤクザ達とのカーチェイスを繰り広げるものの、その最中何とクジラに飲み込まれてしまう。
しかもその中には30年もそこで暮らしているという老人の姿が……

ストーリーを書き出しただけでも、前述の通り破天荒な展開。
さらに雨の大阪の町やクジラの中という暗い絵と、落書きみたいな絵から実写コラージュまで入り乱れる原色バリバリで自由奔放な空想という演出。
生命力だけにかなり「性」の描写がありますが、時に猥雑に、時にユーモラスに。
メイクラブシーンではボサノヴァをバックに、障害物を全て破壊した後墜落していく機関車。
未来都市の中で繰り広げられる宇宙人との交流や水泳大会。
アニメならではの楽しさや喜びをこれでもか!と感じさせてくれます。

そしてクライマックスの脱出シーン!もうここでの疾走感や躍動感、生命力といったら……!
ボートが壊れても皆気合だけで激流の中を駆け抜けていく。もうひたすら「生」に向かって走る走る走る。
その最中でもしっかりギャグを忘れない。アメンボの足とか(笑)
あらゆる障害物をひたすら勢いだけで突破した末に見えたもの。それは、これから訪れるであろう、幸福だろうと不幸だろうと、あらゆる可能性に満ちた未来と、登場人物たちが歩んできた人生。
例え平凡だろうが悪だろうが、皆それぞれの人生を生きている。恐ろしいはずのヤクザですら憎めなくなる。
「タイムベルトがあればなぁ」とぼやくヤクザの兄貴、かつてはヒーロー番組に憧れてたどこにでもいる子供だったわけで、どこか物悲しい……
西くんが神様からやり直しのチャンスを与えられたことを考えるとなおさら。
それらを一気に叩きつけられると、色んな感情があふれてくるんですよ。サンバのメロディはまさに「人生讃歌」そのものだった。
本当に本作に全てを叩きこんだ。それくらいの凄まじい熱量。筆舌に尽くし難いレベルでした。
一番多感な時期という、一番いいタイミングで初めて観れた。それはすごく幸運なことだったのかもしれないです。

ちなみに、クジラに飲み込まれるという展開はピノキオなど割と見かける展開ですが、これの大本の「ヨナ記」は聖書のエピソードで初めて、神がイスラエルの民以外を救う話。
それを考えると、全ての人生をひっくるめて肯定した本作にふさわしい?
いや、本当に元ネタかどうかは分からないのですが……
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