Kuuta

輪舞のKuutaのレビュー・感想・評価

輪舞(1950年製作の映画)
4.7
超好きこれ。

シュニッツラーの同名戯曲の映画化。1900年のウィーンが舞台。この時代のウィーンといえば世紀末芸術や、都市を覆う環状線=リングシュトラーセがあり、クリムトやシーレなどキリがないが、生と死の円環構造が映画全体を囲っていることになる。この設定からしてテンション上がる。

オムニバム形式で様々なラブストーリーが描かれる。狂言回しの男は世界をコントロールする神であり、メリーゴーランドに乗って話を動かす。映画のフィルムも丸い訳で、彼は監督でもある。

オープニング、ワンカット長回しで彼が場面説明をする度に、世界が様相を変えていく。場面転換では、風船や自転車や螺旋階段や噴水が登場する。

生と死を超越した完全無欠の「輪」に対抗する形で、「縦」に突き立てられる剣が男のモチーフであり、「横」たわる女がそれを受ける。格子状の窓など、文明社会には縦と横が溢れている。だからこそ、シャンデリアや車輪の美しさ、現世を超える円形が画面内で際立つ。

男女が関係を深めようとする時、或いは曖昧な距離感にある時、切り返しで斜めの構図が取られる。縦と横が交わろうとする緊張感が現れており、男女が横並びで会話する際も、両者の間には棒やレースの裾などが斜めに入る。

階段や坂の上り下り=斜めのアクションや、高さの違う位置での会話のカットバックで視線が斜めになることで、男女の距離に変化が生じる。

他にも、扉の開閉、照明のオンオフ、鏡越しの会話、薄いベールを介した会話…と「境界を越える」演出多数。映画は娼婦と兵士の粗末な逢瀬から始まるが、どんどん華美なシチュエーションに変化するため、こうした小道具もシーン毎に増えていく。

関係が冷めきった夫婦のシーンでは、振り子時計に顕著だが、綺麗なシンメトリーが維持され、斜めによる関係変化が起こらない(一瞬だけ斜めの会話が入るが、結局シンメトリーに戻る)。

両者の別れたベッドにはそれぞれ照明が付いているから、片方のオンオフで関係が動くこともないし、縦と横=男と女の緊張関係の無いベッドの上の陰影は、曖昧なグラデーションとなっている。

個人的に一番良かったのは、男と給仕の女がくっつくエピソード。縦、横、斜めの対比が影を絡めて描かれている。

女を狙う男の表情に、椅子の背もたれの「縦」の格子が重なる。窓に目隠し用のカーテンロールが付いているため、部屋全体に「横方向の影」が伸びている。

男1人を撮ったショットでは、「現実としての縦の格子」と「虚構としての横の影」が早くも交差しており、彼の脳内では既にセックスしてる感じ。

階段を使った斜めの会話を経て、女は男の誘いに応じ、男に近づく。女の体に「横の影」が重なり、その影は男の体へと結ばれる。男の願望が現実となる瞬間。男は窓を閉め、部屋全体が影に包まれる。

「流麗なカメラワーク」と必ず言われるオフュルス作品。綺麗なのは勿論だが、上記の演出と絡めながら長回しを成立させている場面がいくつもあり、圧倒されてしまった。

例えば男女の上手くいかないやり取りで、カメラが左右にパンしたり、その間に縦の柱が挟まったり。坂の上へ斜めに駆け上がる男女をカメラが追うと、その終着点にベンチが置かれており、2人は抱き合う、という流れも素晴らしかった。

特にやべえなこれと思ったのが、終盤、男がベッドの上で寝ている場面。斜めを向いて話していたように見えたが、実際は鏡に反射した姿を撮っていただけで、カメラが引くと縦横が正常な部屋に戻り、そのままシーンが続いていく。

どのシーンも、アクションと構図と美術が全部一致して初めて成立するものだ。これぞ総合芸術だと思う。94点。
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