こたつむり

骨までしゃぶるのこたつむりのレビュー・感想・評価

骨までしゃぶる(1966年製作の映画)
4.0
♪ 出くわせた運命を思うほど
  その手の体温が 鼓動が 点っていくんだ
  至上の安らぎ

すごいタイトルですよね。
骨って。しゃぶるって。
かなりえげつない単語の組合せですよね。勿論、実生活で使う可能性がある言い回しですし、題材的に選ぶのも分かりますが…そのセンスは確実に昭和。

勿論、演出も昭和ど真ん中。
でも、それが良いんです。
墨汁で塗り潰すような筆致だからこそ、味わい深い作品に仕上がっているのです。

物語の舞台は1900年(明治33年)。
文明開化の音が響いても、隅々まで届くには時間がかかるわけで、貧乏な農村では“身売り”が当たり前だった時代。主人公は遊郭に売り飛ばされます。

そこに在るのは煌びやかな世界。
綺麗な着物に、美味しい食事。
「一生懸命働けば家に帰れる」なんて言葉を胸に頑張る主人公。

でも、それはまやかし。
ズブズブと沼にハマっていく要素に過ぎません。借金は只管にかさみ、商品価値がなくなるまで解放されることはないのです。まさにタイトルどおり『骨までしゃぶる』世界。

いやぁ。怖いですねえ。恐ろしいですねえ。
闇の世界に一度堕ちたら、簡単には抜け出すことができない…その事実が臓腑をかき回します。そして、裸電球が当たり前の時代だからこそ、寒気がする物語を淡々と(しかも色気場面が皆無)紡げたのでしょう。

ちなみにここからは余談ですが。
21世紀になっても同じような話が日本の片隅で行われていたんですよね。『売春島』という本に詳しいのですが、闇は身近なところにある…それを忘れてはいけません。

まあ、そんなわけで。
空から一筋の光明が刺すのか、それとも沼に沈んでいくだけなのか。歴史の一頁…と呼ぶには苦しくて重い題材ですが、テンポよく描いているので身構えなくても大丈夫。確実に傑作なのでオススメです。

なお、主人公を演じたのは桜町弘子さん。
なんとなく松雪泰子さんに似ていると感じたのは…気のせいでしょうか。どことなく上品な空気が漂っているんですよね。
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