亘

人生はビギナーズの亘のレビュー・感想・評価

人生はビギナーズ(2010年製作の映画)
4.0
2003年ロサンゼルス、38歳独身のオリヴァーは父ハルの遺品整理をしていた。ハルは妻を亡くした4年前にゲイであることを告白し晩年はゲイ生活を楽しんだ。オリヴァーはそんな父を回想しつつ恋愛に一歩踏み出す。

明るいジャケットとは反対に、オリヴァー目線で進むストーリーは淡々としてる。それはオリヴァーが内気で恋愛に奥手で慎重だから。でも、どこか温かみとか優しさがある。彼は美術史家だった父の影響で芸術に明るく、現在はCDのジャケットを描くイラストレーター。この作品の中でも時代を表すためにいろいろな写真を用いたり感情を表す絵を描いている。彼は慎重だけど周囲の人を冷静に観察・分析している。そして名脇役なのが飼い犬アーサー。セリフのある犬としてオリヴァーの恋を助ける。

オリヴァーの父ハルも美術史家ということもあり元々は堅物。でもカミングアウトですっきりしたのか70代にして恋人を作ったり、ゲイ・コミュニティーでバカ騒ぎしたり、癌に侵されても人生を謳歌する。息子オリヴァーよりもアクティブでオープンに挑戦する、まさに晩年でも"ビギナーズ"だった。きっと「こんな時期じゃこれもできない」じゃなくて「この時期でもできることはないか」という発想をしてたんだと思う。

そんな父の様子を回想しつつオリヴァーは恋に踏み出す。パーティーで出会ったフランス人アンは女優として各地を転々としていて、いまいち目標が定まらずどこかもやもやしている。そう、アンもまた"ビギナーズ"なのだ。アンは恋人とは長続きしないし各地を転々としているし、かつてのオリヴァーであればどこかの時点で別れてしまうはず。それでも父の姿を思い出しアンと一緒に過ごそうと決める。

「僕たち、どうなる?」「わからない」「試してみよう」今作のセリフはセンスあるものが多かったけど、30を過ぎた2人の"ビギナー"がトライを決意するラストのやりとりは特に爽やかだった。

印象に残ったシーン:ハルがゲイ・コミュニティーのメンバーとバカ騒ぎするシーン。無言のアンと対話するシーン。アーサーが助言するシーン。アンがオリヴァーの元に戻ってくるシーン。

印象に残ったセリフ:
・「お前はライオンが欲しいと思っていた、そこへキリンが現れた、ライオンをあきらめひとりぼっちで過ごすかキリンを選ぶか、お前はどっちだ」
・「完璧とはいえないわ。なにをしているか自分でもわからない。でもここにいたい」
・「試してみよう」

余談
・今作はミルス監督の経験をもとにしています。監督の父親は75歳でゲイを告白したそうです。
・アーサー役の犬はCosmoといいます。Wikipediaにはページがあり職業は俳優となっています。
亘