舞台は1950年代のヨーロッパ。
老マジシャンタチシェフのショーは時代遅れでどこへ行ってもウケず、旅から旅の流れ歩く生活。
しかし純朴な住民が多いスコットランドの田舎町では大盛況。
彼を本物の魔法使いだと信じてしまった少女は、町を飛び出し彼についてきてしまう。
着いたのはエディンバラ。そこで父と娘のような不思議なふたりの生活が始まる。
夜の闇に溶けるエディンバラの街
靄がかった夜明けの海
凶暴なうさぎにあったかなシチュー
角のおいしそうなパン屋さん
看板にスペシャルティーと書かれたカフェ
クラシックな劇場にカビ臭い楽屋
素朴で温かなアンティークのような画。
その作りこまれた画から温度や匂いが伝わってくるよう。
そしてほぼセリフはなく、詩的な表現で広がっていくふたりの世界。
それを助けるジャズや民俗音楽を中心としたノスタルジックな音楽。(サントラが素晴らしい…!!!)
あぁとても好きだ…好きすぎてこの世界に溶けてしまいたかった。
脚本はジャック・タチが娘のために書いたものが元になっているそう。
それを踏まえると、タチシェフが残したメッセージの奥に潜む寂しさと優しさがひときわ輝く。
彼は確かに彼女に新しい世界に飛び出すための靴を授けた。
でもその靴を生み出したのは決して魔法ではなかった。
その正体に、きっといつか彼女は気づく。
「誰かを解放することで自分の喪失感からも自由になる。」という監督のメッセージが深く刺さる。
でも魔法が解けた後の現実も決して悪くはないんだよと、窓から吹いた爽やかな風は優しかった。
時代の移り変わりに抗うことができなかった隣人マジシャンたちの末路を憂いながら、タチシェフの旅は続いていく。
甘くてほろ苦い、まさに大人のための物語。
今まで観たアニメーション作品の中でトップ3に入るくらい好きだった。
Blu-ray高いけど、買う。
234/2017