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ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃のbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
◾︎ゴジラシリーズ第25作

【作品情報】
公開日   :2001年12月15日
作品時間  :105分
撮影    :シネマスコープ
監督    :金子修介
脚本    :長谷川圭一、横谷昌宏、金子修介
製作    :富山省吾
音楽    :大谷幸
特殊技術  :神谷誠
出演    :新山千春、小林正寛、仁科貴、南果歩、葛山信吾、村井国夫、佐野史郎、宇崎竜童、大和田伸也、天本英世、ほか

【製作舞台裏等含む作品概要】
ミレニアムシリーズ第3弾。
ゴジラ映画の監督を夢見た男・金子修介(平成ガメラ三部作を監督)が、遂に念願を叶えた作品である。

併映は『劇場版 とっとこハム太郎 ハムハムランド大冒険』(可愛いハムちゃんズを見に来た子ども達には、トラウマを植え付けること必至であっただろう)。

本作のゴジラは、作中台詞としての説明があるが、「太平洋戦争で死んでいった数多の英霊達の魂が、戦争を、彼らの無念を忘れ生きる現代日本人に、悲惨な戦争と国の為に死んでいった彼らの存在を思い出させる為に、日本を蹂躙しにやってくる」という、怨霊怪獣である。

これが何を意味するか?
答えは、本作は所謂〈ゴジラ英霊論〉という考えに基づいたお話である、と言うことだ。


〈ゴジラ英霊論〉とは、54年の初代ゴジラの東京蹂躙ルートに端を発した議論のことである。
初代ゴジラは二度目の東京上陸にて、芝浦→新橋→銀座→霞が関(国会議事堂破壊)と進み、上野方面に北進後、勝鬨橋を破壊して東京湾に去る。
このルート、形としては、皇居をグルリと一周するような足取りだ。しかし、何故が皇居だけは破壊しない。
この奇妙なルートに対し、公開後に、「何故ゴジラは東京を横断するように蹂躙するのに、皇居は破壊しないのか?」という議論が巻き起こった。

このような議論に対し、映画評論家の川本三郎氏が自身のエッセイにて、
「ゴジラは第二次世界大戦で南の海に死んでいった兵士たちへの鎮魂歌ではないか」と指摘した。
こうして、ゴジラ=英霊という考え方が生まれたのだ。
(後年、民俗学者の赤坂憲雄氏が、川本三郎氏の考えに、三島由紀夫の『英霊の聲』との繋がりを見いだし、ゴジラ英霊論の一つの終着点となった。)


【作品感想】
惨虐、無慈悲、凶悪。
初代ゴジラ登場以来約50年の歳月を経て、再び破壊と死の化身となったゴジラが、スクリーンに帰ってきました。それも、「日本を攻撃する」という明確な意図を持って。

これまでのゴジラ作品では、ハッキリと「何故ゴジラは日本に来るのか?」という理由を示した作品は、殆どございませんでした。
少し話がそれますが、初代ゴジラが東京を破壊し尽くす様は、空襲により東京が焼け野原となったイメージを彷彿とさせるものであり、当時の人々が凄惨な戦争体験を抱えていたからこそ、それが何を表す画面なのかわかるように作られていたものです。

明確な反戦思想と、銃後の人々の戦争体験、それらの理解が観客全体に通底していたことにより、「何故ゴジラは日本に来るのか?」という明確な理由づけをする必要が無かったのです。
その結果、以降のゴジラシリーズにおいても、ゴジラ来日の理由は示されず、示されたとしても「日本でなければならない」という強い要因はありませんでした。

本作のゴジラは、これまでのゴジラとは違います。
前述のとおり、ゴジラはを太平洋戦争で死んでいった数多の英霊達の魂」の集合体であり、平和ボケして祖霊を敬う心を忘れた現代の日本に対して、その無念を思い出させる為にやってくるのです。
日本を破壊しなければならない理由が、ここまで明確に示されたゴジラは、唯一無二と言っていいでしょう。

こんな理由でやってくるゴジラは、そのビジュアルからして超異色です。
マッシブで首が太く、歩く姿もどこかオラついている。
特に怖いのはそのお顔。なんと、黒目のない、白目ゴジラなのです。
太平洋戦争で命を散らした英霊達の、残留思念の集合体たるゴジラ。その怒りの象徴が、この白濁した目なのだと思うと、全く素晴らしいビジュアルとしか言いようがありません。


かつて日本に大和の國ができるよりも昔、國の概念そのものを守る存在として祀られている三匹の護国聖獣という設定は、日本の神話的・民族的・郷土的な意味で、とても説得力がありますね。
『空の大怪獣ラドン』がクマソの國の象徴的存在であるというところにも通ずるものがあります。

その他にも、第五福竜丸被爆のポスターへのフォーカス、学校教師の「原爆」という直球な発言、放射能汚染を確認することの必要性、撃墜された戦闘機が民家を破壊する様子、徹底した容赦なき殺戮描写……等、過去のゴジラとは日にならぬほど暴虐性を映し出した本作が持つ、平和ボケした日本人への「忘れるな」という訴えは、この先も決して色褪せることのない力強さを持っております。

娯楽性とテーマ性を見事に融合させた傑作。『ゴジラ ミニラ ガバラ オール怪獣大進撃』以来の出演となる天本英世の怪演技も必見です。
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