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王と鳥のlycanthropeのネタバレレビュー・内容・結末

王と鳥(1980年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

本当に30年も前のアニメ映画なのかと思うぐらい完成度が高い。キャラクターの動きや表情が生き生きしていて見ているだけで楽しい。特に色合いや絵柄、デフォルメされた城の造形などからは芸術的な表現に対する製作者の意気込みが伝わってくる。
ストーリー自体はアンデルセンの童話を膨らませただけあって、子供にも親しみやすいシンプルな冒険活劇になっている。少し退屈だが、フランス映画らしい(?)ユーモアやペーソスに溢れ、大人の鑑賞にも十分耐えうる内容を備えている。むしろ風刺の内容を考えるとどちらかというと大人向きかもしれない。何しろ、あれだけ好き勝手に権力をふるう王様が、序盤で肖像画の中の王様と入れ替わってしまっても誰も気づかないのだから。王様のある身体的な特徴がすっかり変わってしまっているにも関わらずだ。権力者がいかに横暴な存在でも権力機構の内部の人間は権力者の人間的な個性など把握していないし、さして関心を払わないというところに風刺がきいている。権力機構とは本質的に非人間的なものであり、それ故に権力者は人間的に孤独な存在であるということか。登場人物の鳥に寄り目を馬鹿にされて王が自室で怒り狂うシーンはある意味象徴的だ。
きらびやかに飾り立てられた城も、至る所に王の権力を支えるための罠や仕掛けが張り巡らされており、どこか人間性を排した冷たいものに感じる。城に設置されている調度類も王を象ったものばかりで、その様はどこか滑稽だ。
ヴォイチェフ・キラール作曲の音楽もこの映画の大きな魅力だが、初めて視聴した時にはなぜこんなにメインテーマが悲しげなのか疑問だった。しかし、権力者の孤独と非人間的な権力の悲劇的な末路を描いた作品だと考えると哀愁を漂わせるメロディが人間の業や無常観を感じさせるようでしっくりくるような気がする。ぜひ世界観に浸ってゆっくり鑑賞してほしいと思う。
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