Yusuke0523

王と鳥のYusuke0523のネタバレレビュー・内容・結末

王と鳥(1980年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

『王と鳥』
(原題:Le Roi Et L'oiseau)

アニメーションの芸術としての可能性を飛躍的に向上させた、金字塔





あらすじ

タキカルディ王国を統べる王のシャルル5+3+8=16世は、国民を嫌い、また国民にも嫌われた、独裁者であった。
家臣もいつも王のご機嫌取りに勤しみ、機嫌を損ねた者は王によって奈落に落とされた。

そんな王を憎む、1羽の鳥がいた。
鳥は王に妻を殺され、次は罠にかかった息子を殺されそうになるが、寸手のところで救い出した。
王にとっても自らに不敬な鳥は目障りで、互いに憎み合っていた。

ある日の夜、王の秘密のアパルトマンに飾られていた絵の中に住み、お互いに愛し合っていた羊飼い娘と煙突掃除人は、城からの脱出を図る。
王が愛してやまないその娘を奪うために、王の肖像画が心を持って動き出した。

暖炉を伝って煙突からアパルトマンを逃げ出した2人は、生まれて初めて見る空に感激し、近くに住んでいた鳥の父子とも親しくなる。

脱出の騒ぎで目を覚ました王は、肖像画から抜け出した自分の姿に錯乱し、肖像画の自分によって奈落に落とされる。
肖像画の王は、まんまと本物の王になりすまし、家臣を欺いた。

手段を選ばずに羊飼い娘を追う王と、鳥の助力を得ながら城を脱出しようとする2人の逃避行が始まろうとしているーーー。










感想

僕自身、オールタイムベストに挙げている1本で、全ての映画ファンやアニメーション好きが観るべき作品だと思ってる

元々は、アンデルセンの『羊飼い娘と煙突掃除人』を下敷きに、詩人のジャック・プレヴェールが脚色を行って、アニメーション映画を作る予定だった
しかし完成が遅れに遅れ、功を急いた共同製作者のアンドレ・サリュは、プレヴェールと監督のポール・グリモーに断りもなく勝手に編集をして、ヴェネチア国際映画祭に出品してしまった
これが、1952年に公開された『やぶにらみの暴君』だ

結果この作品は審査員特別大賞を獲るなど非常に高い評価を得たものの、本国フランスではこれといったヒットもせず、不本意な状態で世に放たれたこの作品を忌み嫌ったグリモーとプレヴェールは、長年の歳月をかけてフィルムの権利を買い戻し、この作品を封印した
そして、この作品の一部のシーンを変更・追加して1980年に公開した作品こそが、この『王と鳥』というわけ

そのために、一部シーンに明らかにデザインの異なるキャラクターがいたりするのだけど、そこもまた一興で、ドラマを感じる

世界的に数多くのアニメーターに影響を及ぼした作品で、あのスタジオジブリもこの作品抜きには語れないほど強く影響を受けている
(ちなみに、『王と鳥』日本初公開の配給はジブリが行い、仏語翻訳は高畑勲氏が行った)

監督のグリモーは、実写の広告映画から入った方で、当時は珍しかった社会風刺が込められた短編アニメーションを早くから製作していたものの、長編はこの『やぶにらみの暴君』と『王と鳥』が唯一の作品となった
(これは、『やぶにらみの暴君』の版権に関する問題が長引いたためと言われている)

高く高くそびえ立つタキカルディ王国は、城自体が1つの国であり、さながら社会の構造の写し鏡だ
支配する層・される層を極端な表現でわかりやすく描いており、現代社会に通ずる皮肉も随所に込められてて、古さを感じるどころか今観ても恐ろしく新鮮な輝きを放った作品

話は終始暗いのだけど、それ以上に活劇として非常に観応えがあり心が躍る

人は誰もが檻に囚われず、自由に生きる権利がある
永久不変のメッセージが込められたエンディングが胸に刺さる
Yusuke0523

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