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ゴーストライターのtakのレビュー・感想・評価

ゴーストライター(2010年製作の映画)
3.6
ロマン・ポランスキー監督作は作品の振り幅が大きい。文芸大作があるかと思えば、ヒューマンドラマもあり、おどろおどろしいホラーやスリラーがあったかと思えば、サスペンスも舞台劇のような映画もある。初めて観たポランスキー作品は忘れもしない「ローズマリーの赤ちゃん」。その後「テス」「フランティック」「マクベス」「チャイナタウン」・・・と観ることになる。「ゴーストライター」はこれまでの監督作で言うならば巻き込まれ型サスペンスの「フランティック」に雰囲気は近いかもしれない。

元イギリス首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)が自伝を出版するためにゴーストライターを探していた。提示されたのは破格の条件。向かない仕事だとおもいつつゴーストを引き受けた主人公(ユアン・マクレガー)。しかし前任者は謎の死を遂げており、ラングの過去に様々な疑惑が浮かび上がってくる。そして真実に近づいた彼に危険が及ぶことに。ちょっと疲れ気味の体に政治サスペンスはややきつかったが、次々に出てくる新事実やサスペンス描写に引き込まれる。

前任ライターが残した手がかりに、主人公が迫っていく過程がスリリング。観客にも主人公を通してしか情報は与えられない。その分だけ不安な気持ちにさせられる。ポランスキーが上手いのはその盛り上げ方。例えばクライマックス、首相夫人ルース宛の手紙が人の手を次々と渡っていく描写にはドキドキする。ちょっとヒッチコックを思わせる。シンプルで台詞すらないが、それでも戦慄を覚えるラストシーンは実に見事。他国のスパイ組織が政権の裏側で糸を引いていたという事実は衝撃的。もしかしたらアメリカを悪者にした結末は、アメリカではお尋ね者であるポランスキーなりの皮肉なのかもしれない。首相夫人のオリヴィア・ウィリアムズの存在感。ティモシー・ハットン、ジェームズ・ベルーシという懐かしい顔も嬉しい。
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