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ゴーストライターのpikaのレビュー・感想・評価

ゴーストライター(2010年製作の映画)
4.0
こういうのを洒落た映画というのだろうか、無機質でスタイリッシュな美術が全く出しゃばらず映画に溶け込んでいて、寒々しい海と島の風景のくすんだ世界が画面に映えまくってる。初期作を見てから見たせいか技術や鍛錬云々では到達できぬ映画的なセンスというやつが端から携えられてるような気さえするほど、トムフォードやボネロなんかの〈洗練〉というやつとは格の違う上品さがある。例えがおかしいのは置いておいてください。

ラストショットの構図が仕事を初めた瞬間と同じで、降っていた雨がやみ、その代わりに…って締めるところが驚嘆のカッコよさ!オープニングタイトルがなかったのはこのためか!!って唸らせるエンディングの粋なこと!やらしー!とは思わせぬ鮮やかさがたまらない。
おじさんとおばさんが暗い画面の中で駆け引きしてるだけなんて誰得!?みたいや地味過ぎる主題をここまでスリリングな娯楽へ見せきっているのがとにかく凄い。ゴーストライターという立場を暗喩的な意味へと流し込んでいく展開もワンダフル。元首相をジェームス・ボンドの印象に引っ張られ続けているピアース・ブロスナンに演じさせているのも意図的で良い。
サスペンスドラマであるのにその謎解き自体に比重を置いていないドライな演出だからだろうか、映画だからそういう目で見てしまうだけで出ているキャラクターの誰もがただそこらへんにいたら普通に職務を全うしてそうな生々しさを持っている。些細な仕草を軽やかに強調し印象を植え付けていく演出の積み重ねが、先を読むより今の瞬間を味わうよう自然に誘導されてしまう。現代的な痕跡の辿り方も謎を追う理由への説得力があり、ズブズブと足を踏み込んでいくユアンと共にジワジワ緊張感を携えながら映画にのめり込まされる底しれぬパワーがある。
息をもつかせぬ魅力の塊。熱中とはこういうことか!ってくらい延々ずっと面白い。

ただ、アメリカを舞台にイギリスに帰れない男をアメリカに入れない男であるポランスキーが描くと老境の叫びのように見えてしまうところもあり、そんなところ気にせず楽しめばええやん、とは思っても気になるのは否めませんでした笑
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