純

処女の泉の純のレビュー・感想・評価

処女の泉(1960年製作の映画)
3.5
ものすごくシンプルな話だけど、神を信仰して生きるということの重みが伝わる重厚で濃い映画だった。復讐に信仰という要素が入ると独特の悲しみややり切れなさ、いたたまれなさが生まれるんだなと、無信仰ながらに感じた作品でもある。

所詮人間なんだから、と言い切ってしまえばそれまでだけど、そう割り切れない生き方もあるんだろう。神のもと定められた生き方、高潔な生き方を選んだ娘が汚されたという、これ以上ない不名誉、屈辱に立ち向かう父親の姿と、羨望と妬みから己を責めるインゲリの葛藤がそれぞれ丁寧に描かれていて良かった。

復讐を果たした父親に待ち受けるのは、神の沈黙というある意味最も重いものだった。この映画では宗教絡みであるがゆえに、本来であれば悪を倒した正義として気持ちよく終われるはずの展開が複雑に思われる。悪を成敗した自分に何の成敗も下されないという苦しみが、残りの一生ずっとこの父親にはついて回るのだ。そう言った、罪そのものの重みだけでなく、神への裏切りが持つ、消えることのない過去との対峙をしっかりと描いてくれていると思う。

最後に泉が湧き上がってきたときに皆が感じた思いはどんなものだったのだろう。救いとも取れるけど、責任を問う神からの警告とも捉えられるんじゃないだろうか。今の言葉を忘れるな、っていう。美しさはもちろんあるけれど、インゲリの演技をはじめとして、醜さに焦点をおいて作られた映画であるように感じる作品だった。監督の強い思いがひしひしと感じられる。1度観ておきたい作品を観ることができて良かった。
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