よしまる

グラン・ブルー完全版 -デジタル・レストア・バージョン-のよしまるのレビュー・感想・評価

4.2
 もう30年以上前の映画なのかぁ。フィルマに書き込もうとして、グレートブルー、グランブルーオリジナル、そしてこの完全版とチェックしたらどれもmark数が4桁で驚いた。
 あの時代にフィルマがあれば軽く10万超えだろう。そのくらいに、映画オタクやふだん映画観ないけど意識高い人たちもこぞって観ていた。これとパルプフィクションを観ていないと話ができなかった。部屋にグランブルーのポスター貼ってるやつがどれだけいたか。
たまに間違ってラッセンのポスターって人も居たけれどwww

 で、あらためてじっくり完全版を観てみると、なるほどこんな映画はそれまでには無かった。お約束のラブストーリーからも逸脱し、素潜り対決というお題なのにスポ根やバトルものの熱さとは無縁。ヌーヴェルバーグの系譜を辿りながらも、無駄を削ぎ落とし退屈させることはない。ほとんどが地上でのシーンにもかかわらず、まるでずっと海の中にいたかのような錯覚に陥るほどの美しい青の世界。狙ったかのようなチープなサウンドトラックも80年代という時代の鏡としてもはや味わい深い。

 まるっきりアメリカンなのに、なぜかヨーロッパ女優のアンニュイさを持っているロザンナアークエット。彼女の好き嫌いが評価に結びついているところがなきにしもあらずって感じで、ボクは超好き。めっちゃ惚れまくってるのに一歩引くところ、ジャックを常に尊重し、どこか諦めにも似た面持ちで寄り添う姿がいじらしい。時には爆発してしまうけれど、それも含めて見事な熱演だった。ガールミーツボーイの典型をテンポよく描いておいてのあのラストへの展開は当時呆気にとられたものだ。

 ジャンレノは、やはりこの頃の無邪気なガキ大将が最高だ。実はもう40近かったはずだけれど、20代の青年のような繊細な演技が素晴らしい。

 ジャンマルクバールについては語るまでもなく、この作品のために現れたようなものだった。浮世離れした表情、寡黙で、ただ行動でのみ思いを示す潔さ。軽薄な90年代においても型破りなカッコ良さとしてなぜか心のスキマに引っかかる、そんな男。
 共感は出来なくても、憧れさえなくても、心を惹きつける何かを持ってる。

 結局ボクにとってはリュックベッソンの魅力はここに全てが詰まっていて、当たり前に喧嘩して慰め合う男の友情や、当たり前に恋を成就して添い遂げる男女の恋愛が、まったく当たり前でないこと、そしてそれが時に不思議な輝きを持って観るものを捉えて離さない、そんな映画が作れるのだなぁという思いが今なお見返すたびに沸き起こる極上のファンタジーなのだ。

 なんにもすることがない暑〜い夏の昼下がりに、エアコンの効いた部屋でのんびり観よう!