凛太朗

トト・ザ・ヒーローの凛太朗のレビュー・感想・評価

トト・ザ・ヒーロー(1991年製作の映画)
4.3
『八日目』、『ミスター・ノーバディ』などのベルギー人監督ジャコ・ヴァン・ドルマルの長編初監督作品。

老人ホームで暮らすトマは、生後間もない頃に病院で発生した火災により、子供の頃に住んでいた家の向かいに住む同じ誕生日のアルフレッドと取り違えられていた。
パイロットであるトマの父親は、アルフレッドの父からの仕事を引き受けたことにより事故死。
そのお陰で困窮してしまった一家は、どんどん不幸のどん底に。
弟はダウン症。母親はスーパーで生肉を盗むまでに陥り、姉のアリスだけがトマの拠り所であったが、そのアリスもアルフレッドと親しくなり、トマは奪われたと思い込んでしまう。
そんなトマは、TVの名探偵トトに憧れ、アルフレッドへの復讐の炎を燃やしていた。

という妄想に駆られた老人トマのお話。

このトマがですね、言葉は悪いかもしれませんが明らかにボケており、その爺さんの回想っていう流れでお話が進むものだから、何が本当で何が偽りなのかというところが物凄く曖昧で、曖昧なままに説明もなく話が進行して行くため、頭ん中クエスチョンマークだらけになります。
なんなら生まれたばかりの頃に病院の火災でアルフレッドと取り替えられた。っていうこれ自体が誤った記憶なんじゃねーのか?ってなるんですけど、私自身、0歳の頃のある記憶が微かにあり、昔母親に確認してみたところ、実際にあった出来事みたいなので、なんとも言えないところもあるんですよねぇ。

ただし、これがトマの都合のいい記憶の改竄による妄想、或いはトマの頭にある、ある種せん妄的な状態を映像化した内容だとしても、劇中にあるありとあらゆるものに全て意味があり、なんら無駄がないと思います。
所謂、叙述トリック、或いは信頼できない語り手という手法で描かれているこの映画、ラスト近辺から驚きの結末を迎えることになるのですが、控えめに言ってこれは凄い!
素直な関心しましたし、これがあるから、それまでのわけのわからない話を観てきてよかったと思いました。

基本的に信頼できない語り手のトマによるネガティブなお話ですが、ラストでそれまでの印象がガラッと変わるようになっていて、ここのカメラワークから役者の表情、どれをとっても秀逸で、本当に素晴らしいなと思いました。
色んな視点から見る救いのようなものがあるなと感じました。
凛太朗

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