1人の男の、少年期、青年期、老年期という三本の時間軸を行き来することで、彼の人生を、ときに空想を入り混ぜつつ描いた作品。
人生の酸いも甘いも、どこか懐かしくときに切なく…主人公の視点から常に語られるため、彼の自伝を読んでいるかのような感覚にも至った。
子供の頃の思い出は、彼にとっては甘いキャンディによってすぐに呼び起こされるのだろう。
それは作中でまさにプルーストのマドレーヌのような役割を果たしていた。
キャンディや歌など…当時馴染みのあったものが彼を過去へと誘う。
本当はそれくらいやってしまいたい、という思いをそのまま映像で表現してしまう思い切りの良さ。
現実と虚構が常に隣り合わせにある演出はこれ以外にも多く見られた。
それは例えば、前を走るトラックの荷台の部分で彼の大好きな思い出が甦る。
これは実際に彼の目の前で起きているように見えるけれど、彼の夢の世界なのである。
それを見つめる老人の彼の瞳は、純粋な真っ直ぐな子供の瞳であった。
彼の思う「ヒーロー」の達成は、人生の集大成であり、彼の出した人生への答えは、優しさであった。
優しすぎて生きづらい主人公に癒やされ、ときにともに傷つき苦しむ。
豊かな想像力によるロマンチックな演出に心踊る一方で、人生の厳しさにチクリと胸が痛むような、さまざまな味のする作品だった。