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クリーン、シェーブンのSのネタバレレビュー・内容・結末

クリーン、シェーブン(1993年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

2021/10/15 名古屋シネマテーク

ドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマン監督に師事したロッジ・ケリガン監督の初監督作品。  

ノイズにまみれた唯一無二の映像表現で、観る者を哀しき虚無に突き落とす残酷な一作。
頭に受信機と、指に送信機が埋め込まれているという妄想を抱えた男が、回復も見られぬまま施設を出て故郷に戻り、里子に出された愛娘を探すが、図らずも幼児殺人事件の容疑者と疑われてしまう。

陰鬱で抑制されたトーンの中、頭皮を切り裂いたり、髭を剃る際に肌から流れる血液や、生爪を剥がすなどの残酷描写も、淡々とドキュメンタリー的に撮影されている。
幻覚幻聴に悩まされながら娘を探す総合失調症の男を、約2年に及ぶ苦しい撮影に耐えたというピーター・グリーンのリアルな演技が壮絶。例えば紙コップ3杯分の砂糖入りカフェオレを作って飲んだり、車のサイドミラーから窓全てに新聞紙を貼り付けるなどの奇行や、故郷に暮らすピーターの実家での母親との対話と食事シーンの、殺伐とした空気感がやるせない。里親の女性や母親が、素手で捌いた生魚の残骸をバケツに入れるなど、細かな演出の不快感が素晴らしい。
近年リバイバル上映された『アングスト/不安』と同ジャンル。


2021-302
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