螺鈿

クリーン、シェーブンの螺鈿のレビュー・感想・評価

クリーン、シェーブン(1993年製作の映画)
4.0
よく観にいく劇場で一時期公開されていたもののタイミングを逃し見れなかった本作がセールになってたので鑑賞しました。系統で言えば“Angst”が近いのですがこっちはこっちであまりにも独特で不穏で異常な世界が広がっていました。常人の我々には全然理解しがたい映像が続いていきます。安易に言葉にしてよいのならば芸術性・表現の高さを思い知らされる作品でした。

 ストーリーに関してはあらすじの通りでして、作中ではそういった状況説明が全くされないため事前に内容を頭に入れながら観るのがよいかと思われます。映画自体も唐突に隔離部屋というか牢屋というかホテルの一室みたいなシーンから始まり、外に出て車を運転して〜と流れていくため「今のは一体......?」となりがちです。出所?後に養子に出された娘を探すべくモーテルなり実家なり図書館なり養子縁組施設なり色々な所を巡るのですが、彼の去った後に少女が殺されていたり誘拐されたり事件に巻き込まれているようでそれを追う刑事がもう一人の主人公です。(ちなみにまあまあおじさんですが事件関係者の女性をナンパしてワンナイトする程度にはクズです。)
 統合失調症の主人公ですが、母親の話からすると幼少期から頭が良く社交的で動物にも優しい人間だったのですが、恐らく妻を亡くしたことで何かが狂っていってしまったようです。多分......。

 下手なホラーよりも怖いですし、割とゴア・スプラッター系観ても平気なのですが本作の中にそんな耐性をサクッと超えてくる「痛いシーン」があるので苦手な方は要注意です。久しぶりに顔を背けちゃうレベルでした。

 ただ好きな所もありまして、まず作品が90年代前半ということですが自然豊かな田舎が舞台になっていたり映像自体の質やカメラワークなどから、もっと古めの映像作品の印象があります。田舎特有の塗装が剥がれて寂れた建物と緑と茶色の草木、穏やかな風が同居する雰囲気などは郷愁を誘われます。
 そして何より物語の終わり方は非常に素晴らしく、狂ってしまった息子を邪険にしていた母が、亡くなった彼の服を洗濯し干している時に涙を流すのですが風に吹かれたシャツがしばらく母に寄り添い、その後逆風で母から離れていくシーンはグッと切なくなりました。また主人公は探していた娘と再会し短い時間ながらも心を通わせたために、周りの大人に対して心を開かなかった娘は「頭の中に受信機が埋め込まれている」という主人公の言葉を信じて船の無線機から父親に呼びかけるのですが、それが本作における唯一の救いになっています。

 誰にでも勧められる作品ではありませんが物好きな方は是非。
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