きりん

男はつらいよ 望郷篇のきりんのレビュー・感想・評価

男はつらいよ 望郷篇(1970年製作の映画)
4.2
「どうせおいらはヤクザな兄貴、わかっちゃいるんだ妹よ。いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて」
大好きな寅さん主題歌、その歌詞を体現したような物語。今作は特に兄と妹のやりとりが真に迫っている。

終盤、夏の夜。誰にも告げずそっと寅さんがとらやから出て行く。宴会騒ぎが遠く感じるほどに、格子戸にかけられた祭り提灯が音もなく揺れる。
このたった数秒のシーンの風情がすごくよくて胸に刺さった。
寅さんの胸の内にあるままならない悔しさが夏の夜風と一緒に肌に伝わるかのよう。
その後の寅とさくらの会話も必見。

さくらが「偉くなくたっていいのよ、額に汗して地道に働くことは尊いことなのよ」と兄に訴えかける言葉は、帰宅したら寅さんを観るのを楽しみに仕事してた私にまでグッときた(T . T)

人生うまくいかないことばかり、頑張ってみては失敗の連続だし、生まれる場所も選べない。
男はつらいよシリーズは度々そこに一抹の寂しさはあれど、空っ風 気風よく次の物語へ進んでく。
我々は寅さんを通じて人生の寂しさに共感するし、だからこそ応援したくなっちゃうんだろうなあ。

張りのある声、語りの抑揚、親しげな笑顔。
その場がパァっと明るくなるような啖呵が渥美清さんは相変わらず本当に上手。


◇5作目登場の口上◇
さんでしんだがみしまのおせん
おせんばかりがおなごじゃないよ
しろくさいたがゆりのはな
四角四面豆腐屋の娘
色は白いがみずくさい
四ツ谷赤坂麹町チャラチャラ流れる御茶ノ水
粋な姉ちゃん立ちションべン


「おひかえなすって!」
「おひかえなすって!」
「それじゃあ仁義になりません!まずあんさんからお先におひかえなすって」
「それじゃあひかえさせて頂きやす」
「早速おひかえなすってありがとうさんにござんす。
私生まれも育ちも葛飾柴又です。
姓はくるま、名は寅次郎!
人呼んでフーテンの寅とあっしやす!」
きりん

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