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夜のRのレビュー・感想・評価

(1961年製作の映画)
4.8
かなり久しぶりに見た! これで4回目。何度見ても見ごたえが衰えないどころか、見るたびにインパクトが強烈化。まず何よりすげーって思うのが、最初から最後まで、すべてのシーンがめちゃめちゃクールでカッコいいこと。都会に暮らすある裕福な熟年夫婦ジョバンニとリディアのたった1日の出来事を淡々と描いた映画で、個人的には前半30分くらいの描写の切れ味が特に好き。病気で死にかけてる友人の病室を訪ねるふたり。明らかに友人のことを愛しているリディアは、耐えられなくなって病室を出、ひっそりと涙を流す。友人はふたりのことを無二の親友だと語るが、ジョバンニはその発言をしっかりと受け止めたくないようだ。そして、帰りがけに、別の病室の色情狂の女に誘惑され、危うく誘いにノリかけたりする。その話を帰りに妻に打ち明けるも、妻は全くもって興味を示さず、肉欲をそんな風にあらわにできるとは自由でうらやましい女だ、と語る。その後ジョバンニは自分の書いた小説のサイン会に行き、妻はそこを抜け出して、街をぶらぶらとさまよい歩く。インテリで如才なく振る舞えるジョバンニとはまったく異なる、街の粗野な男たちに心惹かれるリディアだが、その夜、何を思い立ったか夫に、今夜は街へ外出しようと言い出す。この理由を考えるのもなかなか興味深いのだが、こっからがまさに本作のメインディッシュ! たいへんに複雑な構成で、ジョバンニとリディアのアバンチュールの行方が展開。同時に、富が人間にもたらした新たな孤独と渇望、そしてその場しのぎの一時的な慰めのむなしさをまざまざと描きだしてみせる。果てしない砂漠のような、茫漠たる空虚感のなか、刹那の快楽と興奮に溺れ、形だけの知性をひけらかし、チヤホヤされて得意になる人びと。しかし、朝の光はすべての虚飾を呆気なく引き剥がし、無意味にしか思えぬ人間存在の寄る辺なさをむき出しにする。ラストシーンの圧倒的などうしようもなさにはめまいすら覚える。これほど取り返しのつかない愛の結末を、今後二度と見ることはないだろう。根っこがなければ、漂うしかない、忘れるしかない。根のない人間ははかなく、根のある人間は孤独。このペシミズムは現代社会を覆うリアルな病理だ。それをすばらしいビジュアルの3人の役者が体現する歓び。誰にも本音をことばで語らせず、視線と所作とモンタージュによってヒリヒリと感じ取らせる見事な演出。全画面がうるさいほど意味を叫んでるアントニオーニの真骨頂。
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