ひでやん

大いなる幻影のひでやんのレビュー・感想・評価

大いなる幻影(1937年製作の映画)
4.6
「第17捕虜収容所」「大脱走」など、数々の戦争映画に影響を与えた作品で、反戦映画の傑作として語り継がれる不朽の名作。

ドイツの捕虜収容所を舞台に、捕虜となったフランス人将校たちの脱走劇、捕虜仲間や敵国人との交流を描く。

囚われの身である捕虜たちの表情は明るく楽観的に見えた。まるで修学旅行中の学生が、先生の見回りを警戒しながら煙草を吸うように脱走用の穴を掘る。

規律や監視の目があり、見つかった脱走者は無論、射殺となる。しかし、そこにあるのは支配と隷属ではなく、人と人。

捕虜はフランス、イギリス、ロシア各国の将校たちで、貴族、役者、裕福なユダヤ人などがいる。監視する側はドイツ軍の新兵から老兵。

敵と味方が描かれているが、善と悪という構図はなく、人と人が心を通わせている。

フランス飛行隊の中尉と大尉が、脱走不可能とされる収容所へ移され、そこで二人を撃墜したドイツ貴族の大尉と出会う。

同じ国でも貴族階級と労働者階級では住む世界が違う中尉と大尉。そして敵国だが友情が芽生える二人の貴族。

互いに相手を認め、尊敬し、やがて訪れる生と死。この貴族二人がとても良かった。

窓辺のゼラニウムは国籍や階級、損得や善悪などなく、花は花としてただそこに咲いている。

二人を匿ったエルザの娘も屈託のない笑顔を咲かせる。

「国境なんて人間が作ったものだ」

国籍、階級、人種、そして戦争さえも大人が作り上げた幻影だ。国に囚われ、国境に救われる二人の姿が心に残る名作だった。
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