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汚れた血のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

汚れた血(1986年製作の映画)
4.6
「ホーリー・モーターズ」を前日に観てグチったのをすっかり忘れたほど、カラックスの才能が大全開で大満足。印象に残るシーンばかりで映像の美しさに痺れました。構図、陰影、色彩、質感、カメラワークすべて完璧。 そして疾走感。みんな走りたい。走って踊って、何かに追いつきたい。沸き上がる情熱に突き動かされて。

ストーリーはSFのようなファンタジーの設定で、それはあまりコアではなく、追い詰められた人々が誰のために何をするか、そこに愛があるか、誰への愛なのか、それは真実なのかを問うています。

愛を語るのに、たくさんの言葉がありました。
アンナはマルクをいちばんに愛しているが、アレックスの情熱を好ましく思うので、アレックスには挑発的に感じられます
リビーはただひたすらアレックスを求めます。
アレックスはカラックス自身でしょう。「君とすれ違ったことは、世界とすれ違ったことだ」

愛のないセックスは致死率の高いウィルスに感染するという設定は、究極の愛を探し求めようとする人々を描きたかったのでしょう。

布団のくぼみの陰影で、アンナがそこにいた残像を表し、そこに横たわるアレックス。届かない思慕の表現が秀逸。

バス停にいるアレックスは停電したバスの中のアンナの片側だけしか観ることができないその陰影の美しさ。

アレックスがボウイの曲で走るシーンはもう感動しかないです。

アジトから見える通りの画はまるで抽象画。対面の壁のグレーにガラスドアの縁の光。目に映るすべての画がアートでした。

なんて美しく女性を撮るのでしょう。
ジュリエット・ビノシュの自然な表情。自分の前髪をふーと吹きかけたり、髪の毛くしゅくしゅしたり、媚びない愛らしさ。カラフルなティッシュから覗く瞳だけで感情を表したり。

ジュリー・デルピーの儚そうで意思の強い一途さ。バイクで追いかける時の喜びに満ちた表情は、彼女もまたスカーフで顔を隠し、瞳だけで表しています。

いわゆるグラビア的なモノ的な女の色気を見せずして、生きてこちらに働きかけてくる女性の美しさでした。

脳裏に焼きつく瑞々しい青春の一頁。
タイトルの意味がわからず仕舞いですが、今は深く考えずにそのまま受け入れておきたいです。

劇中、赤が差し色としてあちこちに入っていました。犯行に及ぶ時のアンナ。アンナの色なのかと思ったら、リビーもアレックスを追いかける時に着ていました。

彼女達の純粋さの赤と違い、
アレックスのいかさまカードは赤が当たり。
父親譲りのいかさまな人間を表し、卑下しているのかもしれないです。

「ホーリー・モーターズ」がカラックス自身のオマージュだと言われる理由がわかりました。年代順に観ないとダメでした。

カラックスの溢れる才能と感性がつまった素晴らしい作品でした。
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