ブタブタ

汚れた血のブタブタのレビュー・感想・評価

汚れた血(1986年製作の映画)
5.0
レオス・カラックス監督【アレックス青春三部作】を一気見したので再レビュー。

「愛は伝染する」
「少年は金庫を、少女は掟を破った」

ジャン・リュック・ゴダール、リュック・ベッソンらと新しい仏映画の才能・潮流、コクトーの作品からとって「恐るべき子供たち」と言われたレオス・カラックスの最高傑作だと思う。

二十世紀末、彗星の接近により異常気象が続く近未来のパリ。
愛のないsexで感染する奇病STBO。
その世界観と画面に挿入される赤い色が鮮やかで非常にスタイリッシュな映像が素晴らしい。
ラブストーリーよりもワクチンを盗み出す犯罪スリラーの描写がそのどぎつい迄に美しい映像と相まって恐怖の部分を抜いて映像美を前面に押し出したダリオ・アルジェントの作品の様にも思えた。

アレックスがバスで街に向かう時、アジトに向う時、そしてラスト近く空港へ向う途中に現れる女性(胸がV字カットの服を着ている)は何なのだろうか?自分の勝手な妄想では死神だと思った。

ボウイの『modernLove』をバックに疾走するシーンはもう語り草だけど要所要所で流れる『ロメオとジュリエット』もいい。
アレックスが夜の街角に立って違法掛けトランプを開くシーンで、カードが高速で行き来するアップとそこに被るアレックスの掛け声「よく見てよく見て赤ないか黒ないか」ってカードと金(札)が交錯する一連の流れのスタイリッシュさ、全てのシーンが決まってる。

アレックスを犯罪へと誘う中年男の一人の愛人である年上の女、アンナ(ジュリエット・ビノシュ)に恋したアレックスはひたすら好きだと言い続け結局振り向かれる事無くひたすら振られ続ける様がこれでもかと描かれる。
アレックス=ドニ・ラヴァンの爬虫類的ルックスって醜いと言ったら醜いけど、キャラクターとして確立された醜さというか、一周回って美しい、なのでアンナに口説く詩的な台詞の数々と相まって『シラノ・ド・ベルジュラック』みたい。

STBOのワクチンを盗みにアレックスが製薬会社に侵入する場面、ワクチンのフラスコが電子的装置に囲まれてて、このデザインが50~60年代のSF映画みたいなレトロフューチャー感。
このワクチンを盗み出す一連のシーン、既に警官によって包囲されててエレベーターからアレックスが出る、自分のコメカミに銃を突きつけて「動いたらバンだ」と包囲を突破、そこに〝バイカー少女〟ジュリー・デルピーが颯爽と現れてアレックスを攫う、追い縋る刑事を冷酷に振り向き様に射殺、2人のバイクがトンネルの中にギュイーンと走る。
このスピードとスタイリッシュさと間髪入れない場面のカットが凄すぎる。

「何ヶ月も僕の腹はコンクリートみたいにカチカチに固くなってコブだらけで耐えられなかった。大猿め、急所を射とめやがった。虫が飛んできたのが見えた。 それが弾だった」

「腹がシコって~」のくだり、アレックスはもしかしたら末期ガンで元々余命幾ばくもなかったのかも。

今はなき渋谷シネマライズにて。
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