1974年製作、"インディペンデント映画の父"と言われた米国の俳優でもある名監督ジョン・カサヴェテスの作品。今作では、カサヴェテス監督の妻であり精神疾患を患った女性を演じたジーナ・ローランズがゴールデングローブ賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされる演技を見せている。
ある夫婦間、家族間でのストーリーであり設定はシンプルなものである。神経症気味の妻メイベルを持て余しながらも、土木作業員として一人で家庭を切り盛りする夫ニック。突然の水道のトラブルで頻繁に家を空けるニックに、メイベルの感情は徐々に高ぶっていく。抑えきれない強い愛情から、夫を苦しめてしまうのだった。
メイベルを演じたジーナ・ローランズの渾身の演技を見て、精神を病んだ人物とはどのようであるかということは甚く理解できた。感情の起伏が激しく、興奮を抑えられなくなっていまう。興奮したときはジェスチャーが大きく、顔に神経が張りつめたように引きつりを見せ、顎を引いてクッと睨みつける。人との距離感やスキンシップを掴めない様子であった。
メイベルを客観的に見ていて、ニックとの意思疎通がうまく図れていないことがこのような精神疾患に繋がる原因であった。元々メイベルは神経質で繊細であり、ちょっとしたことがストレスに感じてしまう人間であった。それにも関わらずニックは荒々しい性格で、メイベルの不適切な行動に苛立ちを見せ激怒し、メイベルの不安を助長してしまっていた。周りの目も冷たく、高みの見物をするかのようにメイベルを「おかしな女だ。」という見方をしているのが伝わってくる。精神疾患を患っているという理解をした上での対応する方法は変わってき、高圧的な態度、暴力的な発言や行動は控えなければならない。不適切な発言、突発的で場を弁えないメイベルの行動は、周りの目からすると受け入れがたく、見ていてヒヤヒヤすることばかりである。
メイベルは愛情表現、情緒が豊かである。それに対しニックは不器用で愛情表現が下手である。愛しているとは言いながらも、波があって、メイベルには受け取れない。2人の不器用な夫婦の家庭内での話が、俳優たちの演技力によってシンプルで平面的なものから、色味を帯びてより重厚な作品へと仕上がっている。