いの

ヘンリー・フールのいののレビュー・感想・評価

ヘンリー・フール(1997年製作の映画)
4.1
デタッチメントからコミットメントへ
多分これも大きく的外れな感想だと思うけど、観終わって最初に浮かんできた言葉がこれ。村上春樹作品群評によく冠されるフレーズで(それはもうあまりにも使い古されちゃってるし聴く気にもならねぇ)、だけどわたしはそのフレーズを全面的に首肯しているわけではない。同じところに留まることをよしとせず、作者も作品も歩を進めていく。もちろん発展はしていくけど、最初からもっていた根っこの部分は変わってないのだと思う。誰もが見えるかたちとしてそのように見えるようになっただけで。そのあまりにも使い古されていて聴く気にもならねぇフレーズをここで言うのも気が引けるけど、でも最初にその単語が浮かんできてしまったのです。

ハル・ハートリー知ってからまだ日も浅いお前が偉そうに言うんじゃねぇ!と言われたら全くもってしてホント仰る通り。でもここはアタシのレビュ-だから好き勝手に書きます。根っこは変わってない。でもハル・ハートリーは、自分の内面に深く突っ込んでいったと感じるし、今までのやり方から更なる歩を進めたのだと思う。おしゃれなファッションも舞台劇的な台詞もここにはない。ハル・ハートリーは今作で、どこかで何か覚悟を決めたような、そんな印象を受ける。心の中から出た途端に吐瀉になるものや下痢になるものも含めて、それを出してみようと。もちろん彼なりのユーモアも含めて。それは他者に拒絶されるのかもしれないけれど、心の中にあるものを出してみたい。自分にとって切実なものは、誰かにとってはクソだとしても。自分にとっての善きことは誰かには受け入れられないことだとしても。この世の不条理もやるせなさも含めて。そこにやっぱり『トラスト・ミー』のときのようなあたたかなメロディが時折流れるから、どこかアタシは監督からまだ見放されずにいられるような、そんな気持ちになる。あのメロディは、監督からキャストや観客に差し出されたあたたかなプレゼントだと思う。




※スコアは暫定的
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