zhenli13

リバティ・バランスを射った男のzhenli13のレビュー・感想・評価

4.4
素晴らしかった…今更ながら。アクションのキレと素早さを断絶させないショットが尋常でない。と同時にカタルシスよりもそこはかとない悲しさを残し、何度でも観たくなる作品だと思った。そしてジョン・ウェイン、ジミー・スチュワート、リー・マーヴィンの三人の男に際立つのはそれぞれの不自由さであるように思った。(この三人が揃う眼福よ)

リー・マーヴィン演ずるリバティ・バランスによる暴力のアクションは素晴らしく、序盤でスチュワートを遠慮なく張り倒すさまは「60年代」の映画になったのだなということを思い知らされる。
彼は典型的な悪党役として表される。しかし無法者を標榜しつつ、既得権益をもつ牧場主らの権力の傘に守られるリバティ・バランスは「自由」ではない。

ジミー・スチュワートの弁護士ランス・ストッダードは西部の無法地帯に法と秩序をもたらすことを目指し非暴力であろうとするものの「リバティ・バランスを射った男」として英雄視される存在となり、それが本当は彼によるものでなかったとしても公に明かすことはできず、結局はウェインの銃によって守られた事実を生涯背負うことになる。

「現在」のシーンでジョン・ウェインが姿を現すことはついぞ無い。切りっぱなしの粗い板で作られた棺桶だけが映される。ジミー・スチュワートの回想シーンにのみ、ウェインは存在する。
ラストでその棺桶に置かれるサボテンの花によってつながれるのはウェインとヴェラ・マイルズ。ウェインによって繰り返されたマッチを擦って大きな炎で火を灯すアクションは、ラストで汽車に揺られるスチュワートによって再びおこなわれ、ウェインとつながれる。
そしてウェインそのものが「現在」では棺桶でしか表されないことにより初手から時代の遺物であることが決定づけられている。マイルズにむかって「怒ると益々きれいだ」などと恥ずかしくなるような口説き文句を述べるも、民主主義という新時代の風をもたらす男スチュワートの出現にマチズモの男ウェインは去らざるを得ない。スチュワートを救いつつも彼は時代の表舞台から姿を消す。その救いがスチュワートの心に長年宿ったことを知ることなく棺桶に収まることとなる。

フォードは安易な非暴力肯定もせず、かといって暴力への馴化も肯定しない。ただ提示する。

すごいなぁ!と思ったショットはたくさんあり、食堂や議場となった酒場のシーンの喧騒などどれも素晴らしいのだけど、序盤で棺桶を前にヴェラ・マイルズ、ウディ・ストロード、アンディ・ディバインの三人が狭いベンチにぎゅっと横並びに座る正面ショットも好いなと思った。上院議員の妻、老いた黒人男性、元保安官の三人はかつて同志のように過ごしたことがのちの回想シーンでわかる。
マイルズ演ずるハリーは食堂の威勢の良い給仕であり文盲だったがスチュワートから読み書きを教わった。保安官は毎回ツケで飲食し、いつも逃げ腰だったがバランス一味の逮捕で花を持たせてもらった。黒人のウディ・ストロード=ポンペイはウェインの片腕で、ウェインがマイルズに贈ったサボテンの花を庭に植えてやり、「黒人が酒場に入るな」と拒否する男をウェインが阻止した。

議場シーンは男性しかいない。アメリカの女性参政権は1920年からだった。
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